部分環の基本概念
部分環の定義
部分環(subring)とは、ある環 \(R\) の部分集合 \(S\subseteq R\) を、適切な条件のもとで自分自身も「環」とみなせるようにしたものをいう。典型的には、\(S\) が(i)加法に関して閉じ、(ii)加法の逆元を含み、(iii)積に関して閉じることを求める。さらに、\(R\) に単位元が存在する場合に限って、\(S\) に単位元を含めるか否かが定義の分岐点になりやすい。
本稿では、まず一般論として、環の演算(加法と乗法)が \(S\) の内部で完結すること、すなわち \(S\) が \(R\) の構造を「制限」した形で持てることに重心を置く。単位元の扱いは、後続の章で明確に整理する。
部分環と部分代数の関係
部分代数(subalgebra)は、多くの場合「係数体(あるいは環)」の作用を備えた構造として定義される。これに対し部分環は、基本的に加法と乗法だけに関する閉性を軸に据えるため、係数の取り扱いが不要または別枠になることがある。
両者の関係は、基礎となる環が「係数体上の代数」であるかどうかで決まる。具体的に、環 \(R\) が体 \(k\) 上の代数として与えられているとき、部分代数はしばしば「部分環であり、かつ \(k\) の作用に関しても整合的」であることを含意する。
加法群としての条件
環の加法はアーベル群(可換群)を成す。したがって部分環 \(S\) が適切に環の加法構造を受け継ぐには、次が必要になる。
- \(x,y\in S\) なら \(x+y\in S\)
- \(x\in S\) なら \(-x\in S\)
この二つが成り立つと、\(S\) は加法に関して部分群として振る舞う。加法の単位元については、通常 \(0\) は必ず環の要素であるため、自動的に \(S\) に含まれることが多い。とはいえ、定義の流儀により「明示的に \(0\in S\) を要求する」場合もある。
積についての閉性条件
乗法は一般に結合的であることを前提とする。部分環では、積が \(S\) の内部に留まることが要点である。
- \(x,y\in S\) なら \(xy\in S\)
この閉性により、\(S\) の積は \(R\) における積の制限として定義できる。結合性や分配性は、もともと \(R\) が環であることから自動的に \(S\) に継承される。
単位元の扱い(有単位の場合)
有単位環(単位元を持つ環)では、部分環がその単位元を含むかどうかで性質が変わる。一般に次の二通りが区別される。
- 単位を含む部分環:\(R\) の単位元 \(1_R\) が \(S\) に含まれる
- 単位を含まない可能性がある部分環:\(S\) が加法・積の閉性を満たすだけで、単位元を要求しない
後者は「非有単位部分環」として扱う流儀もあるが、教科書によって定義が異なることがある。後で準同型と像・逆像を議論するとき、この差が結果の表現に影響しやすい。
部分環の構成と例
既約でない環の内部構造としての部分環
環が単純(あるいは既約)でない場合、内部には「より小さい構造」が存在しやすい。部分環は、その代表的な縮小の仕方である。例えば、環の元を特定の集合から切り出すと、それが加法と積で閉じる限り部分環となる。さらに、環の分解や準同型の振る舞いを通して、元の族が生むサブ構造として現れる。
この観点から、部分環は抽象論だけでなく、環の表現(行列表示など)により具体的に見出されることも多い。部分環が豊富であれば、元の性質を段階的に分析できる。
代表的な例
整数環と多項式環の部分環
整数環 \(\mathbb{Z}\) は有単位環である。例えば、\(\mathbb{Z}\) の部分環として \[ n\mathbb{Z}=\{nk\mid k\in\mathbb{Z}\} \] が考えられるが、これは積の閉性は満たす一方で、通常 \(1\) を含まないため「単位を含む部分環」とは限らない。定義次第では、ここに単位元を含める要請を外すか、あるいは「単位を含む部分環」に限定するかで扱いが変わる。
多項式環 \(R[x]\) では、係数環 \(R\) が自然に部分環として埋め込まれる(定数多項式全体)。さらに、単項 \(x\) によって作られる部分環、つまり係数が \(R\) に限られる多項式全体は基本例である。より一般に、係数の範囲を縮めた部分集合から定まる多項式の集合が部分環をなす。
行列環における部分環
行列環 \(M_n(R)\) では、行列の加法と積(行列の積)が環の演算となる。したがって、同じサイズの行列の集合であって加法・積で閉じるなら部分環になる。
例として、対角成分のみに値を持つ対角行列全体は部分環である(足し算も掛け算も対角形を保つ)。同様に、特定のパターン(零の位置や対称性)を満たす行列全体を取ると、条件によって部分環が得られる。こうした例は、環が持つ構造を行列という具体的対象に写して理解する際に役立つ。
部分環が自明になる条件
部分環が「自明」(典型的には \(S= \{0\}\) や \(S=R\) のように縮小がない)になることもある。例えば、ある部分集合が加法群として成り立つうえで積に閉じるとき、強い条件が課されていると他に自由度がなくなり、結果が極端に偏る。
具体的な判定は文脈によるが、次のような状況が目安になる。
- 取った集合が加法・積で閉じると必然的に全体の元を生む(よって \(S=R\))
- 取った集合が積によって急速に消滅し、非零元を増やせない(よって \(S=\{0\}\) あるいは小さい部分構造)
一方で、一般の環では部分環は多様に存在するため、完全な分類は対象となる環の性質次第になる。
部分環の生成
部分環の生成概念
部分環の生成とは、ある集合 \(X\subseteq R\) から出発して、\(X\) を含む「最小の部分環」を作る操作を指す。最小性の意味は、含まれる要素の観点での包含関係により定義されることが多い。つまり「\(X\) を含む任意の部分環の共通部分」を取れば、それが最小の部分環になる。
この考え方により、抽象的な性質を「生成元」から説明できるようになる。生成は、計算可能な形で部分環を記述する基礎にもなる。
生成される最小性
最小部分環の存在は、交わりの安定性に基づく。すなわち、\(X\) を含む部分環たちの族 \(\{S_i\}\) に対し、共通部分 \(\bigcap_i S_i\) は再び部分環となり、しかも \(X\) を含む。したがって共通部分は最小になる。
直感的には、「閉性を満たし続ける限り必要なものだけを集める」という方針が最小性を保証する。よって生成された部分環は、単なる包含でなく演算の要請によって決まる。
生成元の記述
生成された部分環の具体形
生成された部分環は、一般には「生成元に対して加法・逆元・積を繰り返した結果全体」として具体化できる。言い換えると、\(X\) から作れる有限回の演算合成が、生成される部分環の要素を構成する。
ただし、単位元を含めるかどうか、また環が非可換かどうかで、必要な表現の形が変わる。可換性は一般に仮定しないことがあるため、積の順序を保つ表現が自然な場合もある。
生成元の追加による関係
生成元を増やすと、生成される部分環は通常より大きくなる。より正確には、\(X\subseteq Y\) なら生成部分環 \(\langle X\rangle\subseteq \langle Y\rangle\) が成り立つ。
逆に、ある生成元の一部が他の生成元から作れる場合、冗長性が生じる。このとき \(\langle X\rangle = \langle Y\rangle\) となり、追加しても部分環は変化しない。生成元の選び方は計算面でも概念面でも重要になる。
部分環と写像の性質
部分環への制限と埋め込み
| 環準同型 \(\varphi:R\to T\) を考えると、部分環 \(S\subseteq R\) はしばしば \(\varphi\) によって写像される対象になる。特に \(\varphi\) を \(S\) に制限した写像 \(\varphi | _S:S\to T\) は、\(S\) が部分環である限り意味のある構造を持つ。 |
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埋め込み(単射準同型)により \(R\) の要素が \(T\) の中に同一視されるとき、部分環の関係は像として移植される。つまり「\(R\) 内で小さい構造」は「\(T\) 内でも小さい部分構造」として現れる。
環準同型による像と逆像
準同型は加法と積を保つ。ここから、像や逆像がどのように部分環を与えるかが自然に問われる。これらは生成や部分構造の理解に直結する。
像が部分環になる条件
準同型 \(\varphi:R\to T\) と部分環 \(S\subseteq R\) を取ると、像 \(\varphi(S)=\{\varphi(s)\mid s\in S\}\) は加法と積の振る舞いが保たれるため、条件のもとで部分環になる。
単位元の扱いはここでも現れる。具体的には、\(S\) に単位が含まれていて、かつ \(\varphi\) が単位を保つ流儀(有単位準同型)であるなら、像の側にも単位が現れやすい。一方、単位を要求しない定義なら、加法・積の閉性だけで部分環性は確認しやすい。
逆像が部分環になる条件
逆像はより直接に扱える。部分集合 \(U\subseteq T\) に対して逆像 \(\varphi^{-1}(U)=\{r\in R\mid \varphi(r)\in U\}\) を取ると、準同型の定義から、\(U\) が部分環なら逆像も部分環になることが期待される。
理由は、\(r_1,r_2\) の和や積の像がそれぞれ \(\varphi(r_1)+\varphi(r_2)\) や \(\varphi(r_1)\varphi(r_2)\) になるためである。したがって \(U\) が閉性を持つ限り、その性質が前像へ伝播する。
部分環の比較(包含関係・同型)
部分環どうしの関係は主に包含関係と同型性で捉えられる。包含 \(S\subseteq S'\) は自然で、生成の章と結びつく形で「より多くの生成元を入れるほど拡大する」という見通しを与える。
同型については、部分環 \(S\) と \(S'\) の間に環同型が存在するかが問題になる。環同型は演算構造を保ち、加法と積に関して互いの性質を移す。同型がある場合、部分環の「抽象的な形」は一致し、埋め込みのされ方だけが異なると整理できる。
同型かどうかの判定は容易ではないが、準同型の核や像の議論、生成元の関係の整理などにより実務的な評価が可能になる場合が多い。