1 埋め込みの基本概念
埋め込みとは、ある対象を別の空間や構造の中へ、情報の欠損を最小化しつつ移し替えるための写像(あるいは操作)である。数学では、扱いにくい対象を、性質が調べやすい環境へ「無理なく」置き換えることで、性質の継承や分類を可能にする。ここでの「無理なく」の中身は、対象と埋め込み先の構造に応じて変化する。たとえば距離空間なら距離の見え方、位相空間なら連続性や開集合の振る舞い、線形代数なら直線性や加法構造が、それぞれどの程度保持されるかが焦点になる。
典型的には、埋め込みは単射であり、元の要素が埋め込み先で区別可能である。その上で、同相性、等距離性、線形性といった保存条件が付加され、構造の「見た目」をどれほど保持するかが階層化される。結果として、埋め込みは「表現の技法」でありながら、同時に「性質を引き継ぐ仕組み」でもある。
1.1 埋め込みの直観的な意味
直観的には、埋め込みは「形を保ったまま別の場所へ貼り付ける」操作として捉えられる。たとえば、線分を平面の中に置くことを考えるとき、両端の順序や長さの関係を壊さないように配置するのが自然である。位相空間の場合は、開集合の近さや連続的な動きが損なわれないように、情報を保持しながら写すことが問題になる。
この直観は、どの構造を優先するかで変わる。距離を重視するなら、長さや角度に結びつく情報がどこまで保たれる必要があるかが焦点になる。一方、位相を重視するなら、隣接性や連結の仕組みを壊さずに写せるかが重要となる。埋め込みは、その優先順位に沿って「壊していないか」を形式化する言葉である。
1.2 厳密な定義と条件
埋め込みを厳密に扱うには、対象と埋め込み先が備える「構造」を明確にする必要がある。そこで、まず単射性(元が潰れていないこと)が土台として登場し、次に保存したい構造的条件が加わる。保存条件は同型性を含むこともあれば、準同型的な弱さを許す場合もある。
形式的には「写像が、対象の構造を埋め込み先の部分において表現し、その部分との対応が無矛盾である」ことが要求される。結果として、埋め込み先の中で像がどの程度の意味で「同じ構造」になるかが分類の軸になる。
1.2.1 単射性と像の性質
埋め込みの第一条件として単射性がある。これは、埋め込み先で異なる点が同じ点に写ることを禁じ、元の情報を識別可能に保つ。単射であっても構造が壊れることはあるため、単射だけでは埋め込みとして十分とは限らない。
さらに、単射性の下で像の性質が重要になる。像は埋め込み先の部分空間として現れ、その部分空間において元の構造が忠実に見えているかが問われる。たとえば位相では像がどのように開集合や閉集合と関係するか、距離では距離がその部分に制限されたとき同じように働くかが問題になる。
1.2.2 構造保存(同型性・準同型性)
埋め込みはしばしば「構造を保存する」ことによって特徴づけられる。保存の強さは、どの構造を相手にしているかによって決まる。
位相的文脈では、連続性が土台になり、さらに像が同相であること(開集合や局所的な位相の情報が一致すること)を要求する場合が多い。距離的文脈では、距離がそのまま保たれる等距離性や、拡大を許す/許さないといった変形の許容範囲が区別される。線形代数では、加法とスカラー倍が整合し、線形構造が保たれることが中心になる。
このように、同型性(強い保存)や準同型性(弱めの保存)が、埋め込みの分類を導く。分類では「どれほど厳密に一致すれば埋め込みと呼ぶか」が明文化される。
1.3 関連概念との区別
埋め込みは写像一般と似ているが、保存条件と単射性が本質的である。包含や同型は特に近い関係にあり、同時に、より強い主張を含むことが多い。射影はしばしば潰れ(非単射)を起こす方向に働くため、埋め込みの典型像とは逆の性格を持つことが多い。
また、埋め込み先の中で「どの部分を像として扱うか」にも違いが出る。たとえば同型は対象全体と埋め込み先全体の同じものとして対応するが、埋め込みでは対象が埋め込み先の部分に同等に現れる、という捉え方になる。
1.3.1 射影・包含・同型
包含はしばしば埋め込みと強く結びつく。たとえば部分集合への自然な写像は単射であり、位相や距離が部分に制限された形で整合するなら、埋め込みの枠に入ることがある。これは「すでにそこに入っているもの」をそのまま見ている状況に対応する。
同型は、埋め込みよりさらに強い関係として捉えられる。対象と相手が完全に同じ構造として対応する点で、像の部分が特別扱いされず、全体が一致するからである。一方、埋め込みは像が相手の一部に落ちるため、相手の残りの部分は意味を持たない場合もある。
射影は通常、次元を落としたり情報をまとめたりする方向へ働き、単射性が失われやすい。そのため、射影そのものは埋め込みの典型ではないが、埋め込みと射影の組合せ(たとえばグラフの表現など)で現れることがある。
1.3.2 単なる写像との違い
単なる写像は、通常単射であるとは限らず、また構造の保存も要求しない。そのため、同一視される点が増えたり、位相の近さが崩れたり、距離の尺度が変わったり、線形構造が失われたりする可能性がある。
埋め込みでは、潰れがないことに加え、構造が崩れない範囲が明示される。結果として、埋め込みは「表示としての妥当性」を保証し、移し替えた後に議論が可能になる。単なる写像では、移し替えた先でどこまで言えるかが曖昧になりやすい。
2 埋め込みの種類
埋め込みは、対象と埋め込み先が持つ構造ごとに定義される。位相の次元で見るのか、距離の尺度で見るのか、あるいは線形構造や幾何学的対象としての曲面・多様体に注目するのかで、必要な条件が変わる。さらに、グラフの埋め込みのように、離散構造を位相や幾何へ「写像して見せる」発想も発展している。
以下では、代表的な種類を順に整理し、それぞれの保存条件や代表的な見方を示す。
2.1 位相的埋め込み
位相的埋め込みは、位相空間の構造(開集合系など)を保ちながら、対象を埋め込み先の部分として実現する考え方に対応する。連続性は基本条件であり、加えて像が同相であるかどうかで強弱が現れる。
多くの場面で、写像の連続性と逆写像の連続性(同相性)が鍵となる。像の中で元の位相がそのまま再現されれば、埋め込みとしての意味がはっきりする。
2.1.1 連続性と同相性
連続性は「近さが保たれる」ことの形式化であり、位相空間では開集合の逆像が開集合になることにより表現される。埋め込みにおいては、写像が単射であることに加え、像を含む形で位相が一致するかが問題になる。
同相性が満たされる場合、対象は像と同じ位相的構造を持つ。したがって埋め込み先の中で像が単なる集合以上の意味を持ち、連結性や連続写像の性質など、位相的不変量の観点でも整合が取れる。
2.1.1.1 開集合・閉集合の扱い
開集合と閉集合の取り扱いは、位相的埋め込みの具体的判定に直結する。連続写像は一般に開集合の像を開集合にはしないが、逆像は開集合として制御できる。埋め込みでは逆方向も含めて位相が一致するため、像の開集合・閉集合の性質が対象側と対応づく。
例えば開集合系が一致していれば、像の中での局所的な性質(近傍や収束の振る舞いに相当)が保たれる。閉集合についても、同相性に基づく対応が成立し、対象での閉包や境界に関する議論が像側へ移る。
2.2 距離的埋め込み
距離的埋め込みでは、距離空間の幾何学的情報を重視する。ここでは、距離がどの程度保存されるかが中心であり、等距離性のような厳密な要件から、より緩い条件まで段階がある。距離が保存されることで、最短経路や連続性、収束の構造といった議論を移すことが可能になる。
距離的埋め込みは、計量を含む表現の変換として見られ、埋め込み先における幾何学的直観を対象の理解に利用できる点で有用である。
2.2.1 等距離埋め込みと非拡大性
等距離埋め込みとは、任意の2点間の距離が埋め込み後もそのまま一致するような写像である。これにより、点どうしの幾何学的関係が完全に保持される。単射性は当然として含まれる。
非拡大性は距離が増えない方向に制御される条件として現れることがある。これは、対象の構造を「縮める」ような変換に許容を与える考え方であり、等距離より弱いが、それでも多くの解析的性質を支える。非拡大性があると、連続性やコンパクト性に関する挙動の一部を推定できる。
2.2.2 距離の保存条件の違い
距離保存は一様に強いわけではなく、条件には選択肢がある。等距離性は強いが、必ずしも実現できない場合があるため、弱い保存(あるいは上界・下界の制御)が検討される。
たとえば、距離がある規則によりスケール変換されるなら、幾何の形は相似的に保たれる。このような場合、中心となる尺度は「長さそのもの」ではなく「相対的な関係」へ移る。したがって、何を保存したいかを目的に応じて選ぶことが埋め込みの設計思想になる。
2.3 幾何学的埋め込み
幾何学的埋め込みは、曲線や曲面、多様体などの幾何学的対象を、より大きな空間の中へ具体的に配置して扱う枠組みである。直観としては、図形を置き換えても折れ曲がりや重なりが許されない、あるいは許される種類が制御される。
この種類では、交差や接触の扱いが論点になる。滑らかさ(微分可能性)や局所座標での整合も、位相的な場合より強い制約として現れることが多い。
2.3.1 曲面・多様体の埋め込みの考え方
曲面や多様体は、局所的にはユークリッド空間の次元に似た振る舞いを持つ。幾何学的埋め込みは、そのような局所構造を保ったまま、より高次元あるいはより扱いやすい空間に写すことを目標とする。
たとえば曲面を三次元空間へ埋め込むとき、曲面上の点が空間の点に対応し、局所的な近傍が破れずに見えることが求められる。これにより、曲率や測地線などの幾何学的道具が移入され、解析が進む。
2.3.2 交差の許容と整合性
埋め込みの強い形では、像が自己交差しないことが要求される。これにより、点が別の点へ潰れていないだけでなく、幾何学的な重なりも避ける。逆に、許容されるのが「位置の一致」なのか「自己交差」の可否なのかで定義が変わる。
整合性は、局所的な取り扱いで特に重要になる。像の近傍で、座標の変換や微分構造が破綻しないことが、局所モデルの接着として問われる。自己交差が許される場合でも、どの程度の接着整合が保証されるかによって、呼び名や性質が分かれる。
2.4 線形埋め込み
線形埋め込みは、線形構造を保ったままベクトル空間(あるいはより一般の加群・加法群)を別の構造へ写す枠組みである。ここでは写像が線形であること、そして単射であることが基本になる。
線形埋め込みの有用性は、線形代数の道具(基底、次元、部分空間)により、像の性質を計算しやすい点にある。さらに、内積やノルムがある場合は距離的情報と接続し、幾何学的な解釈も可能になる。
2.4.1 線形写像による構造の埋め込み
線形埋め込みは、線形写像が単射であり、像が部分空間として適切に現れることを前提にする。単射性はカーネルが自明であることと同値であり、基底を通じて明確に検証できる。
このとき、元のベクトル同士の線形結合が、埋め込み先での同様の結合として表現される。結果として、方程式の解の取り扱いや部分空間の包含関係などが、像側でも自然に対応する。
2.4.2 次元と像の次元
線形埋め込みでは次元の関係が自然に出る。単射線形写像なら、像の次元は対象の次元と一致し、埋め込み先の次元はそれより大きいか等しい。したがって、存在可能性は次元によってまず制約される。
さらに、像の次元が一致することは、基底の写像がどの程度の情報を保持しているかを示す。像を部分空間として扱えば、対象の線形構造がその部分空間においてそのまま再現されるため、計算と抽象の橋渡しが行われる。
2.5 グラフの埋め込み
グラフの埋め込みは、離散的な接続関係を、位相的・幾何学的な環境へ表現する考え方である。単純な例として、頂点を点として、辺を曲線として配置することで、交差の有無や面への収まり具合が問題になる。
ここでは、グラフの保存されるべき構造が「隣接」や「連結のパターン」に対応し、さらに埋め込み先の空間構造に応じて交差条件や局所構造が追加される。結果として、平面性や可視化可能性といったテーマへ展開する。
2.5.1 位相的埋め込みと埋め込み可能性
位相的グラフ埋め込みは、辺同士の交差を制御しながら、グラフを空間の中に配置できるかを扱う。特に「特定の面(たとえば平面)に埋め込めるか」という問題は、グラフ理論でも基本的な判断課題になる。
埋め込み可能性は、グラフが持つ局所的な接続の組み合わせが、空間の制約に反するほど複雑かどうかで決まる。配置の存在を判定するために、禁止部分構造や不変量が利用されることが多い。
2.5.2 埋め込みと平面性・曲面上表示
平面性に関する問題では、グラフの辺を交差させずに平面へ配置できるかが中心になる。交差なしでの配置が可能なら、グラフは平面グラフとして分類される。曲面へ広げると、許される交差の仕方や、ハンドル数などの曲面の性質が、埋め込み可否に影響する。
曲面上表示では、交差を完全に禁止する代わりに、曲面の中に自然に収まるように辺を引くことが許される。このとき、位相的制約は曲面のトポロジーに反映され、配置可能性をより繊細な不変量として捉えることができる。
3 埋め込みに関する代表的定理・結果
埋め込みの理論は、各構造の下で「いつ可能か」「どんな形に制限されるか」「どんな性質が残るか」を答える定理群として現れる。特に、拡張や近似に関する結果、幾何学的対象の局所から大域への展開、距離構造の制約といった観点が頻出する。
ここでは、位相・距離・幾何・グラフという代表領域ごとに、見取り図として主要な方向性を述べる。
3.1 位相における代表的定理の枠組み
位相分野では、埋め込み先をより大きな空間とし、対象をその中で適切に表現する問題が典型になる。枠組みとしては、「任意の位相空間がある種類の空間へどこまで埋め込めるか」という大域性の主張が軸になる。
また、近似や拡張との関係も重要であり、部分に対する情報を全体へ拡げる議論が埋め込みの存在や性質に関わる。こうした結果は、対象の次元・可算性・局所性などの条件を通じて形作られる。
3.1.1 拡張定理・近似定理との関係
拡張定理は、部分集合上で定義された写像や構造が、より広い集合へ延長できるかを問う。埋め込みは、像を確定した後で写像の逆方向を整合させる必要があるため、拡張可能性は埋め込み構成の補助になる。
近似定理は、望む性質を満たす写像をある意味で近くまで作れることを保証する。埋め込みでは、厳密な条件を満たす写像の構成が難しい場合に、まず近似してから微調整する戦略が役に立つ。位相的な文脈でも、局所操作を貼り合わせて大域構造を作るという発想がこれと結びつく。
3.2 距離空間での代表的結果
距離空間の埋め込みでは、距離をどこまで保存するかが最大の制約になる。可能性は高級な数学的構成よりも、距離の性質(例えば曲率的な振る舞い、三角不等式の形、双曲性や平坦性の有無など)に強く依存する。
自由度(どれだけ変形してよいか)と制約(距離を保存すべき度合い)のバランスが、結果の形を決める。等距離を要求するほど構成は難しくなり、緩めるほど埋め込み先の選択肢が増える。
3.2.1 自由度と制約のトレードオフ
等距離性は情報量が最大であるため、一般の距離空間がそのまま都合のよい空間に入るとは限らない。そこで、歪みを許して尺度を比較する指標が導入されることが多い。例として、距離の上界と下界を比例関係で抑える枠組みが考えられる。
その結果、埋め込みの目的が「幾何学的な理解」か「計算の簡略化」かで条件が変わる。目的が計量の忠実な復元であれば制約は強くなり、解析のための枠組みに移したいだけなら自由度が残る。
3.3 幾何学・多様体での代表的結果
幾何学・多様体の領域では、埋め込みの可能性とその構成が、局所の滑らかさや大域的な位相的性質の影響を受ける。とくに次元や特異性の扱いが焦点になり、単に存在するかだけでなく、どのような滑らかさで成立するかが重要になる。
また、特異点がどこまで許されるか、あるいは滑らかな形に整えられるかが、代表的な手法を生む。大域的な障害を乗り越えるために、局所的操作を体系化した手法が活躍する。
3.3.1 特異性の扱いと汎用的手法
特異性は、埋め込みの写像が局所的に破綻する点、あるいは微分構造が期待通りに振る舞わない領域として現れる。一般に、特異点を完全に排除するには強い条件が必要になるため、研究では「許される特異性の種類」や「解消できるか」が争点になる。
汎用的な手法としては、局所モデルに基づいて構造を組み立てる方法や、微分可能な設定での変形(座標変換や滑らかな補正)を通じて望ましい性質へ近づける戦略がある。結果は、滑らかさの階層(連続、微分可能、より高次)ごとに意味が変わる。
3.4 グラフ理論での代表的結果
グラフ理論における埋め込み結果は、平面性や曲面上での配置可能性を判定する方向で発展してきた。ここでは、埋め込みというより「配置可能性」を判定する定理が中心になることが多い。
判定条件はしばしば禁止構造(ある小さなグラフが含まれると不可能になる形)として表される。さらに、埋め込みが可能であることの帰結として、彩色や経路探索など他の性質が導かれる場合がある。
3.4.1 埋め込みの判定条件
埋め込み可能性の判定では、グラフの局所的接続が、空間上の曲線配置の制約に反するかどうかが問われる。判定条件は、禁止される部分構造の同定や、計量的・位相的不変量による検査として現れる。
平面への埋め込み(交差なし)では、頂点の次数やサイクルの絡みが重要になることが多い。曲面の場合は、曲面の特性が許容度を変えるため、同じグラフでも埋め込み可能性が変化する。
3.4.2 系としての帰結
埋め込みができることは、グラフの他の性質に直接影響を与える。典型的には、彩色の上界、探索アルゴリズムの効率、分解可能性などが系として導かれることがある。これは、埋め込みが可能ならグラフを空間の中で扱えるため、位相的手法や幾何学的手法が流用できるからである。
また、埋め込みの不可能性もまた有益で、禁止構造に基づく解析により、どの部位が障害になっているかが示唆される。結果として、構造的理解と計算への道筋が提供される。
4 埋め込みの作り方と応用
埋め込みは「存在するなら構成できるか」「どの方法なら実際に構成できるか」が重要な実務的論点になる。抽象論だけでなく、具体的アルゴリズムや計算手続きへ落とし込めるかが、応用の広がりに直結する。
以下では、一般的な構成法の枠組み、分野別の利用、そして成立しない場合の理解(限界)を扱う。
4.1 一般的な構成法
埋め込みの構成は、しばしば既知の空間への写像から始まり、必要に応じて像を調整する形で進む。要点は、構造保存条件を満たすように写像を設計し、単射性や同相性(あるいは等距離性)を担保することである。
また、族の写像として扱うことで、パラメータを動かしながら条件を達成するという方針もよく見られる。条件が複雑な場合に特に有効である。
4.1.1 既知の空間への埋め込み手順
構成の第一段階は、埋め込み先として扱いやすい空間(ある種の普遍的な空間、あるいは既知の構造)を選ぶことである。次に、対象から埋め込み先への写像を、局所的条件から導いて作る。
最後に、単射性や構造の整合を検査し、必要なら補正を入れる。たとえば位相では連続性と単射性、距離では計量の保存や制御、幾何では微分的整合と交差の制御が、それぞれ終盤の焦点になる。
4.1.2 族の写像による構成
族(ファミリー)としての写像を用いると、あるパラメータに沿って候補写像を連続的に変化させながら、望ましい性質を満たすものを探せる。これは「仮に条件が壊れるなら、その破綻は特定のパラメータに限られる」といった発想に依存することが多い。
族の議論では、一般位置性や可避性といった概念が役立つ。つまり、条件を満たさない例が“少ない”か“薄い”なら、条件を満たす例の存在が期待できる。こうした戦略は、幾何学的・位相的設定で特に見られる。
4.2 応用分野
埋め込みの考え方は、抽象的数学に留まらず、計算機科学や解析、ネットワーク科学などでも重要になる。共通点は、複雑な対象を扱いやすい形に変換し、情報の保持を保証しつつ議論を進める点にある。
また、埋め込みの“部分保持”は実務的にも有用である。すべてを完全保存できない場合でも、目的に応じて必要な性質だけ維持する設計が可能になる。
4.2.1 計算機科学(構造の表現と変換)
計算機科学では、埋め込みはデータや構造をベクトルや空間に写して計算可能にする発想と結びつく。グラフの局所構造を特徴として別の表現空間へ写し、探索や類似性判定を行う場面がある。
ここで重要なのは、写し替えた後に意味が失われていないか、あるいは保存される性質が何かを明確にすることである。たとえば、近傍関係や距離尺度の近似が維持されれば、学習や推定の手続きが成立しやすい。
4.2.2 解析・幾何(扱いやすいモデルへの移行)
解析や幾何では、困難な対象をより扱いやすいモデルへ埋め込むことで方程式や不等式の扱いを簡略化することがある。たとえば、曲面や多様体の問題を、埋め込み先の空間での微分幾何として記述し直すと、既存の道具が使える。
移し替えによって得られる利点は、計算可能な構造への還元である。保存条件がどこまで強いかは、主張の精度や誤差評価に影響する。
4.2.3 ネットワーク科学(グラフの可視化と埋め込み)
ネットワーク科学では、グラフの構造を低次元空間へ写して可視化したり、距離の近い頂点を近くに配置したりする方法が広く使われる。ここでも「埋め込み」が現実的な意味を持ち、完全保存よりも目的に沿った性質の保持が重視される。
たとえば、クラスタ間の分離やコミュニティ構造の反映が保持されると、解釈がしやすくなる。可視化が主目的なら位相や距離の厳密保存よりも、局所的な関係の保持が優先される場合がある。
4.3 制約と限界
埋め込みには常に制約が付きまとう。とくに、強い保存条件(等距離性や同相性の要求)を同時に満たすことはしばしば難しい。結果として、「存在しない」こと自体が理論的に重要な結論になる。
また、保存される性質の不足が引き起こす問題もある。何が保持されないかが明確でないと、埋め込み先での議論が誤導を生む可能性がある。したがって限界の理解は、応用における信頼性の確保に直結する。
4.3.1 不可能性(不埋め込み)の典型例
不埋め込みは、次元、曲率的制約、位相的障害などによって生じる。距離的文脈では、距離構造を矛盾なく保てないために等距離埋め込みが不可能になる場合がある。位相的文脈では、開集合の構造が合わず同相性を作れないことが障害になる。
幾何学では、交差の禁止や滑らかさ条件が強すぎると、特定の対象を目的の空間へ置けないことがある。グラフの場合も、平面性や曲面上での配置に必要な制約が満たされず、不可能になる。
4.3.2 保存される性質の不足とその影響
保存が弱い場合、埋め込み先での計算結果が元の対象に正しく移らない可能性がある。たとえば距離を厳密に保持しないなら、最短経路の長さや距離に基づく評価がズレる。位相が完全に保たれないなら、連結性や連続写像の性質が期待通りに移らない。
影響は、目的関数に依存する。分類が主目的なら少しの情報欠損が許容されることもあるが、幾何学的な量を厳密に評価したいなら、保存の欠け方は致命的になる。ゆえに、埋め込みの選択は保存条件と応用要件の整合が前提になる。
5 具体例と直感的なモデル
埋め込みの理解は、低次元の例や直感に結びつけるモデルを通じて深まる。ここでは線分・円、ユークリッド空間への写し込み、開集合・閉集合をめぐる位相の差、そしてグラフの平面性を扱うことで、各種埋め込みの感覚を具体化する。
5.1 低次元の例(線分・円・グラフ)
線分からの例として、線分を別の線分へ長さを保って写すのは等距離性の最も基本的なモデルである。円については、位置関係を保つように円周へ写すとき、回転や平行移動が典型的な同相的整合を与える。
グラフの例では、頂点と辺を単純に並べるだけでは埋め込みの条件は不十分で、交差の扱いが重要になる。たとえば、あるグラフを平面へ描いたときに辺が交差しないなら、平面グラフとしての埋め込み可能性が直観的に確認できる。
5.2 距離の例(ユークリッド空間への埋め込み)
距離空間としてユークリッド空間を考えると、平面内の点集合を三次元へ写す例が直感的になる。たとえば、平面を三次元の部分として同じ距離で扱えるなら、これは典型的な等距離埋め込みの形を持つ。
一方、距離を厳密に保たず、縮小や歪みを許す場合は、非拡大性や相似的保存といった弱い条件へ移る。これにより、元の尺度での幾何学的比較をどこまで信用できるかが変化する。
5.3 位相の例(開埋め込み・閉埋め込み)
位相埋め込みでは、像の開集合性や閉集合性が直感的な見取り図になる。ある部分集合が開集合として扱えるなら、その部分は近傍構造の観点で自然に切り出せる。これに対応して、開埋め込みという言い回しが使われることがある。
同様に、閉集合として扱える場合は、境界を含めた挙動が制御される。開・閉の性質は、像での位相の再構成に影響し、どのように閉包や連結の性質が移るかを左右する。どちらであるかは、埋め込み先での像の位置関係に依存する。
5.4 グラフの例(平面グラフと埋め込み)
平面グラフの例として、木は交差なしで描きやすい。理由はサイクルの絡みが少なく、辺の閉じた回り込みが交差を強制しにくいからである。逆に、ある種の完全グラフや全二部グラフは、平面への交差なし描画が難しくなり、埋め込み可能性が制約される。
曲面へ広げると、平面では不可能でも交差なしに配置できるケースが現れる。このように、埋め込み先として選ぶ空間(平面か曲面か)で可能性が変わることが、グラフ埋め込みの直感を支える。