1 基本概念

1.1 表現の定義

表現論において「表現」とは、群・環・リー代数などの代数的対象 \(G\) が、あるベクトル空間 \(V\) 上の線形変換として実現されることを指す。最も基本的には、群の表現とは写像 \(\rho:G\to \mathrm{GL}(V)\) であって、積に関する整合性 \(\rho(gh)=\rho(g)\rho(h)\) を満たすものとして定義される。環やリー代数の場合も同様に、与えられた代数操作が線形操作に対応するよう準拠条件を課すことで概念が定式化される。 表現は抽象的な対称性を具体的な行列(あるいは線形作用)として扱えるため、代数構造の情報が計算可能な形へ翻訳される。

1.2 同値と準同型

表現 \(\rho_i:G\to \mathrm{GL}(V_i)\)(\(i=1,2\))の同値とは、線形同型 \(f:V_1\to V_2\) が存在して、すべての \(g\in G\) に対し \(\,f\circ \rho_1(g)=\rho_2(g)\circ f\) が成り立つことをいう。これは、表現が与える幾何学的/線形的データが本質的に同じであることを意味する。 準同型(モルフィズム)は同値ほど強くなく、線形写像 \(f:V_1\to V_2\) であって \(f\circ \rho_1(g)=\rho_2(g)\circ f\) を満たすものを指す。表現の族と準同型を考えることで、表現論が加群論や圏論的な視点と結びつく。

1.3 不変部分空間

表現 \(\rho:G\to \mathrm{GL}(V)\) に対し、部分空間 \(W\subseteq V\) が不変であるとは、任意の \(w\in W\) と任意の \(g\in G\) に対して \(\rho(g)w\in W\) が成り立つことをいう。これにより、表現は \(V\) の内部にある「安定な部分」へ制限できる。 不変部分空間の有無は表現の構造を左右し、既約性や分解定理へ直結する。

1.3.1 既約表現

不変部分空間以外に非自明なものを持たない表現を、既約表現という。より正確には、表現 \(V\) が \(0\) と \(V\) 以外の不変部分空間を持たないとき既約である。 既約表現は「基本的な構成単位」と見なせる。多くの状況で任意の表現は既約表現の組合せとして理解でき、分類問題焦点は既約表現の同定に移る。

1.3.2 完全可約性

ある条件のもとで、表現が既約部分表現の直和として分解できる性質を完全可約性という。典型例として有限群の表現は、体の標数が群の位数と互いに素である場合に完全可約になる。 完全可約性が成り立つと、拡張や非自明な合成ではなく、分解の組合せ情報が表現全体の構造を決める。逆に完全可約でない場合には、既約の「貼り合わせ」による複雑さが増し、表現論の技術も変化する。

1.4 指標

群表現の指標は、表現 \(\rho:G\to \mathrm{GL}(V)\) に対して各元 \(g\) の作用行列のトレースとして定義される関数 \(\chi_\rho(g)=\mathrm{tr}(\rho(g))\) である。指標は同値不変であり、表現の情報を集約する便利な不変量として機能する。 特に有限群では、既約表現に対応する指標が(適切な仮定の下で)完全な分類データになり、計算にも強い。

1.4.1 指標の性質

指標は共役類上で一定になり、\(\chi_\rho(hgh^{-1})=\chi_\rho(g)\) が成り立つ。これはトレースが行列の相似変換に不変であることに由来する。さらに指標は内積を通じて直和分解や既約成分の個数を調べるための道具として使われる。 また、指標はテンソル積や制限などの操作に対して一定の変換規則を持つため、表現の組合せ的操作が計算に落とせる。

1.4.2 指標表

有限群では既約表現の指標を表形式にまとめたものを指標表という。行に既約指標、列に共役類の代表元を取ることで、群の表現論が一枚の表に要約される。 指標表は内積計算や既約分解の読み取りに用いられ、さらにテンソル積の分解を指標の積から決める手順などにも利用される。体系化された計算資源としての役割が大きい。

2 主要な対象

2.1 有限群の表現

2.1.1 群環

有限群 \(G\) に対し群環 \(\mathbb{C}[G]\)(または他の体上の群環)を考えると、群の表現は群環の加群として同等に表せる。群環は形式的和 \(\sum_{g\in G} a_g g\) を要素として持ち、乗法は群の積に基づいて定義される。 この視点により、表現論は環論の道具と結びつき、既約分解やモジュール構造の一般論を取り込める。

2.1.2 正則表現

正則表現は群が自己の上で左(あるいは右)に作用することから得られる表現である。具体的には群環そのものをベクトル空間とみなして左積で作用させると、正則作用が生じる。 正則表現は既約成分をすべて含み、その重複度が既約表現の次元と関係する。したがって、正則表現を起点にして表現の全体像を組み立てることができる。

2.2 リー群の表現

2.2.1 連続表現

リー群 \(G\) の表現では、写像が連続(あるいは滑らか)であることが重要になる。有限次元のベクトル空間上での表現 \(\rho:G\to \mathrm{GL}(V)\) について、連続性条件を課すと解析学的な性質が扱いやすくなる。 さらに、連続性によりリー群の微分構造からリー代数表現へ移行する道が開かれ、構造解析一貫性が得られる。

2.2.2 ユニタリ表現

内積を備えた複素ベクトル空間で、作用が内積を保つ(ユニタリ)形で実現される表現をユニタリ表現という。コンパクトなリー群では任意の有限次元表現がユニタリ化できることが知られ、分類や調和解析と結びつく。 ユニタリ性は直和分解や内積計算を安定化させ、指標理論や調和関数の枠組みに接続する。

2.3 リー代数の表現

2.3.1 誘導表現

リー代数 \( \mathfrak{g} \) の表現は、リー群表現の微分として現れることが多い。ある部分リー代数 \( \mathfrak{h} \) で表現が与えられたとき、これを大きな代数へ拡張する操作として誘導(induction)表現が用いられる。 誘導表現は、元の情報を保持しつつ新しい方向の作用を自由に付け足す構成であり、既約成分を含む普遍的な生成の枠組みとして働く。

2.3.2 重みと根

半単純性などの条件の下で、リー代数の作用はカートン部分代数により分解され、ベクトル空間は重み空間へ分かれる。重み(weight)は作用の固有値に対応する量で、表現の「スペクトル配置」を示す。 根(root)は随伴表現における非零固有成分を特徴づけるデータであり、重みの移動規則として表現の構造を組み立てる。重みと根の組合せは分類理論の中心言語となる。

2.4 代数群の表現

2.4.1 多項式表現

代数群の表現では、群作用が幾何学的に意味を持つように正則(正則写像に相当)性が課される。多項式表現はその代表的な形で、行列要素座標に対して多項式で表されるタイプの表現を指す。 多項式性は代数幾何の手法と整合し、表現の構造を空間の関数として扱えるようになる。

2.4.2 表現環

表現環は表現の同値類を形式的に足し合わせ、テンソル積により積構造を入れて得られる代数として理解できる。有限生成性や既約基底の取り扱いなどが問題になり、計算や分類に利用される。 この環的視点により、分解則や生成元の情報が統一的に記述される。

3 代表的な理論と手法

3.1 既約表現の分類

3.1.1 ウェイト理論

ウェイト理論は、リー代数(や関連する群)の既約表現を重みのデータで組織する枠組みである。重み空間への分解により、作用の様子が「どの重みが現れるか」「それがどの向きへ連結されるか」という情報に還元される。 その結果、代数的な制約が満たされる範囲で可能な重みの集合が絞り込まれ、分類が進む。

3.1.2 最高ウェイト理論

最高ウェイト理論は、適切な正の系(正の根の選択)を入れて重みの中で上端を定め、そこから生成される既約性を扱う方法である。最高ウェイトに対応するベクトルが「下への操作で全体を生成しうる」ことが本質となる。 この枠組みでは、同型類が最高ウェイト(整数条件など)に対応付けられる形で分類されることが多く、既約表現の全体がパラメータ付けされる。

3.2 誘導と制限

3.2.1 フロベニウス反転

誘導と制限は表現論の重要な操作であり、それらの関係を与える公式がフロベニウス反転である。部分群(または部分リー代数)に対して定義した誘導表現と、それに対応する制限表現の間に、内積や準同型空間の次元に関する一致が生まれる。 この関係は、既約成分の移り方を推定する際に強い制御を与える。

3.2.2 ユニタリ化

ユニタリ化は、与えられた表現に対して内積を調整し、作用がユニタリになるように作り直す手順である。コンパクト性などの条件があるとき、この操作が可能になり、指標や直交分解の理論が整う。 ユニタリ化により、計算結果の安定性や既約分解の整理が容易になる。

3.3 テンソル積表現

3.3.1 直和分解

テンソル積 \(\rho_1\otimes \rho_2\) は新しい表現を生成する。多くの状況で、テンソル積は既約表現の直和に分解され、その係数が重要な組合せ情報になる。 直和分解は指標の内積や、既約生成の規則から導かれることが多い。

3.3.2 クリンガー則

クリンガー則は、半単純構造のもとで既約成分の現れ方を与える分解則として知られる。特にリー代数や関連する表現の範囲では、構造定数を決定する計算規則として機能する。 これにより、テンソル積の分解が規則的な手続きで求められる。

3.4 双対性

3.4.1 シュール双対性

シュール双対性は、2つの代数(あるいは作用)が同時に表現空間に作用し、互いの中心化が関係するという形で現れる双対性原理である。具体的には、一方の作用に関して不変な線形変換が、他方の作用の生成する代数と一致するような状況を作り出す。 この枠組みは「2つの表現論を同時に解く」ことを可能にし、既約分解の整理に寄与する。

3.4.2 ヘッケ代数との関係

ヘッケ代数は、対称性や層状の構造に由来する演算体として表現論に登場する。双対性の枠組みでは、ある群作用の不変量を集めた代数としてヘッケ代数が現れ、表現の分解問題を代数計算へ落とす役割を担う。 その結果、幾何学的/組合せ論的データが表現論の係数として翻訳されることがある。

4 応用と関連分野

4.1 数論への応用

4.1.1 ガロア表現

ガロア表現は、ガロア群(体の拡大に関する対称性)をベクトル空間へ写像し、作用として扱うものである。ここでは、抽象的な位相・群の情報が線形作用の形で表され、数論的問題が線形代数の言語へ移る。 さらに既約分解や指標的な量が、素数分解や保型性に関する記述と結びつく。

4.1.2 保型形式との関係

保型形式の理論は、ある種の対称性に対する関数空間の構造を扱う。表現論の観点では、保型形式に対応する表現(またはその系)が構成され、L関数や整除性に関係する予測が導かれることがある。 その橋渡しとして、表現論は「どの対称性がどの解析的量を生むか」を組織化する媒体となる。

4.2 幾何学への応用

4.2.1 幾何学的表現論

幾何学的表現論は、表現を幾何学的対象(多様体、層、幾何学的な不変量など)を通して実現し、分類や計算を行う方針である。群作用や軌道分解、あるいは特異点の構造が表現の生成に関与する。 この分野では、表現の抽象論と幾何学的構成が相互に補強し合う点が特徴である。

4.2.2 層と関手

層は局所情報を貼り合わせて全体の性質を記述する道具であり、表現論では層の空間(あるいはその圏)に対して群作用が入ることが多い。関手は、それらのカテゴリ間で構造を保ちながら写す対応として働き、表現の操作(制限や誘導に対応する考え方)が幾何学側の変換に反映される。 層と関手の組合せにより、計算可能な不変量が得られやすくなる。

4.3 物理学への応用

4.3.1 量子力学の対称性

量子力学では状態空間上の作用が物理的な対称性として現れ、対応する表現が測定可能量の選択則や保存則を決める。対称性があるとき、ハミルトニアンがその作用に整合し、固有状態の整理に表現論が使われる。 特に既約分解により、異なる対称性型が混ざりにくい状況が明確になる。

4.3.2 量子場理論

量子場理論では、場の種類や演算が対称群(あるいはその一般化)により組織化される。表現論は粒子の分類、相互作用の許容性、対称性による制約の記述に関わる。 また、場の局所性と対称性を両立させる枠組みでは、代数的構造が増え、表現論の計算手法が重要性を持つ。

4.4 組合せ論との関係

4.4.1 対称群

対称群の表現は組合せ論と深く結びついており、分類問題が図形や個数計算へ直結する。共役類の構造や既約表現の取り扱いが、置換の分解や組合せ構造を反映するためである。 さらに、指標や直和分解が組合せ的な公式として姿を現し、計算に活用される。

4.4.2 ヤング図形

ヤング図形は、対称群の既約表現と対応付けられる基本的記法である。図形の箱の配置により、対応する既約表現が一意に指定されるという対応が成立し、次元計算や分解規則を図形操作として記述できる。 そのため、抽象的な代数計算が視覚的な手続きへ変換され、組合せ論的理解が進む。