1 ストーリー
1.1 設定
物語の舞台は、古代日本の世界を思わせる架空の地である。人間と精霊や妖怪が共存するこの世界では、死者の魂がさまよう「常世」と生者の世界「現世」が隣接している。登場人物たちは、日本の民間伝承や神話に基づいた存在として描かれ、折り紙に命を吹き込む「折り紙の魔法」や、三味線の音色で現実を操る能力など、超自然的な力が物語の核をなす。
1.2 プロット
1.2.1 序盤
少年クボは、母親とともに海辺の洞窟で暮らしている。幼い頃に片目を失ったクボは、魔法の三味線を奏で、折り紙に命を吹き込むことで村人たちに物語を語って生計を立てている。しかし彼は、父である伝説の武士ハンゾウが亡くなった真実と、月の帝である祖父が自分のもう一方の目を奪おうとしていることを知らない。ある日、クボは不注意から祖父の眷属である「月の姉妹」を呼び寄せてしまう。母親はクボを救うため自らの命を犠牲にし、クボは父から受け継いだ三味線と、折り紙で作られたサルのお守りだけを手に旅立つ。
1.2.2 中盤
クボは、母の魔法によって命を授けられたサルの「モンキー」と出会う。モンキーはクボを守りながら、父の鎧の三つの部品(剣、兜、鎧)を見つける旅に同行する。旅の途中、彼らはクボの父の家来だったというカブトムシの化身「ビートル」と合流する。ビートルは記憶のほとんどを失っているが、クボの父ハンゾウに仕えていたことだけは覚えている。三人は協力して、巨大な骸骨の怪物や、空飛ぶ目玉の大群といった試練を乗り越えながら、鎧の部品を集めていく。
1.2.3 クライマックスと結末
鎧の三つの部品を集めたクボは、遂に祖父である月の帝と対峙する。月の帝は、感情や記憶を持たない完全な存在になるようクボに迫るが、クボはそれを拒否する。戦いの中で、ビートルが実は記憶を失ったハンゾウその人であることが判明し、彼はクボを守るために命を落とす。クボは三味線の力で、村人たちの記憶と感情を結集し、月の帝を打ち倒す。最終的にクボは、完全に記憶を失わせるのではなく、人間としての愛や悲しみを理解させることで祖父を改心させる。クボは村に帰り、両親を失った悲しみを抱えながらも、村人たちと共に生きていく決意をする。
2 キャスト
2.1 オリジナル英語版声優
- クボ:アート・パーキンソン
- モンキー/サリ:シャーリーズ・セロン
- ビートル/ハンゾウ:マシュー・マコノヒー
- 月の帝:レイフ・ファインズ
- カラス/月の姉妹:ルーニー・マーラ
- ホシ:ブレンダ・ヴァッカロ
- カジ:ケイリー=ヒロユキ・タガワ
- マリ:ミン・ナ
- アキヒロ:ジョージ・タケイ
2.2 日本語吹き替え版声優
- クボ:鈴木梨央
- モンキー:柴咲コウ
- ビートル:西島秀俊
- 月の帝:津嘉山正種
- カラス:木村佳乃
- ホシ:井上喜久子
- カジ:宝亀克寿
- マリ:深見梨加
3 スタッフ
3.1 監督・脚本
- 監督:トラヴィス・ナイト
- 脚本:マーク・ヘイマン、クリス・バトラー
- 原案:シャノン・ティンドル、マーク・ヘイマン
3.2 製作陣
3.3 音楽
- 作曲:ダリオ・マリアネッリ
- 主題歌:レジーナ・スペクター「While My Guitar Gently Weeps」
4 製作
4.1 企画開発
ライカ・スタジオは、それまでの作品『コララインとボタンの魔女』『ボックストロール』『パラノーマン』に続く第4作として、日本文化を題材にしたストップモーション映画の製作を決定した。監督トラヴィス・ナイトは、自身が幼い頃から日本の民間伝承や浮世絵に強い関心を持っていたことから、このプロジェクトを推進した。脚本開発には約2年を要し、日本神話や能楽、折り紙などの伝統文化を詳細にリサーチした上で、オリジナルストーリーとして昇華させた。
4.2 アニメーション技術
4.2.1 ストップモーションの特徴
本作はフルCGではなく、実物の人形とセットを用いたストップモーション・アニメーションで製作された。撮影にはデジタルカメラと3Dプリント技術を併用し、1秒間に24コマの動きを実現するために、一つのショットに数時間から数日を要した。特にクボの顔の表情は、3Dプリントで製作された数千もの交換用フェイスパーツを使用しており、微妙な感情表現を可能にした。
4.2.2 特殊効果とプロップ
4.2.2.1 折り紙シーンの実現
作中でクボが折り紙に命を吹き込み、紙が自動的に折り畳まれながら形を変えていくシーンは、本作の最大の技術的挑戦であった。ライカ・スタジオは、実際の折り紙をワイヤーや極細のアームで操作する手法と、CGを併用した。特に長時間の連続変形シーンでは、1フレームごとに折り紙の形を手作業で調整する方法が採られ、その精巧さは批評家から絶賛された。
4.2.2.2 三味線のアニメート
クボが演奏する三味線は、実物大の人形用に特注で製作された。弦の振動や撥の動きをストップモーションで表現するために、各弦には細いワイヤーが仕込まれ、フレームごとに手作業で弦のたわみが調整された。また、演奏シーンではクボの指の動きと三味線の音を正確に同期させるため、事前に録音された音楽に合わせて1コマずつアニメーションが設計された。
4.3 デザインと美術
4.3.1 キャラクターデザイン
キャラクターデザインは日本の伝統美術から強い影響を受けている。クボの髪型や衣装は平安時代の貴族の少年を、月の帝の白い衣装と長い髪は能楽のシテ方を、モンキーは鳥獣戯画の猿をそれぞれ想起させる。人形の製作にはシリコンやウレタン、金属フレームが用いられ、関節部には特殊なボールジョイントが組み込まれている。
4.3.2 背景美術
背景美術は日本の水墨画や浮世絵を参考に、筆致や色彩が意識的に再現された。海辺の村のセットは実際の和紙や木材を用いて製作され、遠景にはグラデーションを施した背景画が使用された。特に「常世」の世界は、葛飾北斎の『冨嶽三十六景』にインスパイアされた雲海や、琳派の金屏風を思わせる装飾が施されたセットで表現されている。
5 音楽
5.1 劇伴
劇伴音楽はイタリア人作曲家ダリオ・マリアネッリが手掛けた。日本の伝統楽器である三味線、尺八、和太鼓をオーケストラと融合させた独特のサウンドスケープを構築している。特に三味線のパートは、プロの三味線奏者による演奏を録音した上でマリアネッリがアレンジを施しており、クボの演奏シーンと劇伴の両方で使用されている。
5.2 主題歌
エンドクレジットで使用された主題歌は、レジーナ・スペクターがカバーした「While My Guitar Gently Weeps」(原曲:ビートルズ)である。この楽曲は、クボが三味線を通じて感情を表現するテーマと重なるよう、アコースティック・ギターとストリングスを主体としたアレンジが施された。
6 公開
6.1 劇場公開
本作は2016年8月19日にアメリカ合衆国で公開された。日本では同年11月25日に公開され、字幕版と日本語吹き替え版の両方が上映された。世界各国でも順次公開され、合計60以上の国と地域で劇場公開された。
6.2 ホームメディア
アメリカでは2016年11月22日にBlu-rayとDVDが発売された。特典映像にはメイキングドキュメンタリー、削除シーン、スタッフの音声解説が収録されている。日本では2017年5月24日に日本語吹き替え版を含むBlu-ray&DVDが発売された。
6.3 日本における展開
日本公開にあたっては、本作の日本文化への敬意が評価され、文部科学省や文化庁の後援を受けた。また、劇場公開に先駆けて、六本木や京都で本作の使用した実際の人形やセットを展示する展覧会が開催された。
7 評価
7.1 批評家の反応
本作は批評家から高い評価を受けた。Rotten Tomatoesでは97%の支持率を記録し、特にアニメーションの技術力、美術の美しさ、音楽の質が絶賛された。The New York Timesは「ストップモーション・アニメーションの金字塔」と評し、The Guardianは5つ星満点を与えた。一方で、ストーリーの展開が複雑すぎるという批判も一部に見られた。
7.2 興行収入
製作費は約6000万ドルと推定される。全世界での興行収入は約7700万ドルであり、ライカ・スタジオの作品としては『コララインとボタンの魔女』に次ぐ成績を記録した。ただし、製作費を回収するには至らず、興行的には苦戦したとされる。
8 受賞とノミネート
8.1 アカデミー賞
本作は第89回アカデミー賞において、視覚効果賞にノミネートされた。アニメーション映画が視覚効果賞にノミネートされるのは極めて異例であり、本作のストップモーション技術が実写映画と同等の高度な視覚効果として認められたことを示している。
8.2 その他の主要賞
- 英国アカデミー賞(BAFTA):最優秀アニメーション映画賞ノミネート
- ゴールデングローブ賞:最優秀アニメーション映画賞ノミネート
- アニー賞:17部門ノミネート(最優秀アニメーション映画賞、最優秀監督賞など)
- サターン賞:最優秀アニメーション映画賞ノミネート
- クリティクス・チョイス・アワード:最優秀アニメーション映画賞ノミネート
9 脚注
本項では省略する。
10 外部リンク
本項では省略する。