1 概要
皮下気腫は、空気またはガスが皮下組織内に入り込んだ状態である。触診すると、気泡がはじけるような感触や、雪を踏むときに似た捻髪感がみられることがある。単独で生じる場合もあれば、胸腔、消化管、創部、感染巣などの異常を反映して出現することもある。
原因は多岐にわたり、外傷、医療行為、気胸、消化管穿孔、ガス産生菌感染などが代表的である。発生の仕方や背景疾患によって臨床像は大きく異なり、軽い局所所見にとどまることもあれば、生命を脅かす重篤な病態の一部となることもある。
1.1 定義
皮下気腫は、皮膚直下の軟部組織に空気成分が存在する状態をいう。病変は局所に限局することも、広範囲に拡大して頸部、胸壁、顔面、腹壁、四肢へ及ぶこともある。
この状態は診断名というより所見であり、原因疾患の存在を示す手がかりとして扱われる。
1.2 病態生理
空気は、損傷した組織間隙や自然孔、あるいは感染によって生じたガスにより皮下へ侵入する。胸部では肺胞や気道、胸膜周囲から漏れた空気が筋膜面を通って上方へ広がることがある。消化管由来の場合は、穿孔部から漏出したガスが腹壁や胸壁に及ぶ。
感染性の場合には、細菌が組織内でガスを産生し、腫脹とともに圧痛、発赤、全身炎症反応を伴いやすい。進行すると血流障害や組織壊死が加わり、急速な悪化につながる。
1.3 臨床的意義
皮下気腫は、比較的無害な経過を示すこともある一方、気胸、気道損傷、食道損傷、腸管穿孔、壊死性軟部組織感染症などの重要な病態を示唆する。したがって、見つけた時点で原因を特定し、重症度を見極めることが重要である。
特に頸部や胸部で急速に広がる場合、気道閉塞や呼吸不全の前兆となりうるため、早急な評価が求められる。
2 原因
皮下気腫は、外傷性、医原性、自発性、感染性の各機序で発生する。実際には複数の要因が重なることもあり、背景の推定には病歴、身体所見、画像所見の総合判断が必要である。
2.1 外傷による原因
外力によって皮膚、筋膜、胸腔内臓器、気道などが損傷すると、外気または体内のガスが皮下へ移行する。受傷部位が小さくても、組織の裂け目が深部と交通していれば広範な気腫が生じうる。
2.1.1 鈍的外傷
交通事故や転倒などの鈍的外傷では、胸壁や腹壁への衝撃により内部組織が破綻し、空気漏出が起こることがある。肋骨骨折や肺損傷を伴う場合は胸部皮下気腫が目立ちやすい。
2.1.2 刺創
刺創や切創では、創部を通じて外気が侵入しやすい。とくに深い創では筋膜下へ空気が入り込み、局所から周囲へ広がることがある。
2.1.3 骨折に伴う気腫
骨折そのものが皮下気腫の直接原因となることがある。開放骨折では創口から空気が進入し、胸郭や顔面骨の骨折では骨片損傷に加えて副鼻腔や肺由来の空気漏れが関与する場合がある。
2.2 医原性の原因
診断や治療の過程でも皮下気腫は発生する。多くは一過性だが、処置関連損傷が隠れている場合には注意が必要である。
2.2.1 手技後の発生
内視鏡、穿刺、歯科処置、創処置などの後に、空気が組織内へ入り込むことがある。軽度であれば自然に吸収されるが、持続的な漏出や臓器損傷があると拡大する。
2.2.2 人工呼吸や気道管理に伴う発生
陽圧換気、気管挿管、気管切開などに関連して、気道や肺胞から空気が漏れ、頸部や胸壁に広がることがある。圧力が高いほど発生しやすく、縦隔気腫を伴う場合もある。
2.3 自発性の原因
明らかな外傷がなくても、体内圧の変化や臓器の破綻により皮下気腫が起こることがある。
2.3.1 気胸との関連
肺胞破裂や胸膜損傷による気胸では、胸腔内の空気が組織面に沿って皮下へ進み、頸部や胸部に膨らみを生じる。緊張性気胸を合併すると呼吸循環の破綻につながるため、見逃しは危険である。
2.3.2 消化管穿孔との関連
食道、胃、腸管などの穿孔では、消化管内のガスや内容物が周囲組織へ漏れ、腹部や胸部の皮下気腫として現れることがある。腹痛、腹膜刺激徴候、発熱を伴う場合は緊急性が高い。
2.4 感染症による原因
感染性皮下気腫は、単なる空気の貯留ではなく、細菌感染に伴うガス形成を意味することが多い。進行が速く、重篤化しやすい。
2.4.1 ガス産生菌感染
クロストリジウム属などのガス産生菌では、組織内でガスが作られ、皮下の腫脹や異臭を伴うことがある。外傷後や汚染創で発生しやすい。
2.4.2 壊死性軟部組織感染症
壊死性筋膜炎を含む壊死性軟部組織感染症では、強い疼痛、全身状態の悪化、急速な腫脹とともに皮下気腫がみられることがある。初期には皮膚所見が乏しい場合もあり、診断の遅れが重大な転帰につながる。
3 症状と所見
症状は原因によって異なるが、腫脹と触診時の捻髪感が典型的である。局所症状に加えて、呼吸器症状や全身症状がみられる場合は、深部病変の関与を考える。
3.1 腫脹
皮下に空気がたまると、該当部位がふくらみ、境界のはっきりした膨隆として認識されることがある。頸部、胸壁、顔面では見た目の変化が目立ちやすい。
3.2 触診での捻髪感
触れると細かな気泡が弾けるような感触があり、診断上の重要な手がかりとなる。圧迫した際に皮下で砂を押すような感触として表現されることもある。
3.3 疼痛
痛みの程度は原因で大きく変わる。単純な空気貯留では軽度の違和感にとどまるが、感染や組織損傷を伴う場合は強い圧痛や持続痛が出現する。
3.4 呼吸症状
胸部由来では、息苦しさ、咳、胸痛、声の変化などが現れることがある。気胸や縦隔気腫を伴うと、呼吸困難が前景に立つ。
3.5 全身症状
発熱、頻脈、倦怠感、低血圧、意識変容などは、感染症や重度損傷の可能性を示す。これらを伴う場合は、局所病変にとどまらない評価が必要である。
4 診断
診断は、身体診察で皮下気腫を確認し、画像検査で範囲と原因を評価する流れが基本である。必要に応じて感染徴候や臓器損傷の有無を同時に調べる。
4.1 身体診察
視診では腫脹や皮膚の膨らみを確認し、触診で捻髪感を評価する。痛み、発赤、熱感、創部の有無、呼吸状態も重要である。
頸部では気道症状、胸部では胸郭運動や呼吸音、腹部では腹膜刺激徴候の有無を確認する。急速な進行があれば緊急性が高い。
4.2 画像検査
画像は、気腫の広がりを把握し、背景病変を探すために有用である。検査の選択は症状と推定原因によって異なる。
4.2.1 単純エックス線検査
単純撮影では、皮下の透亮像や筋膜沿いの空気を確認できる。胸部では気胸、縦隔気腫、肺損傷の手がかりも得られる。
4.2.2 断層撮影検査
断層撮影は、広がりの評価と原因検索に有用である。胸腔、縦隔、腹腔、軟部組織の微細な空気分布を把握でき、穿孔や感染巣の検出にも役立つ。
4.2.3 超音波検査
超音波では、皮下組織内の気体により反射が強くなり、アーチファクトが生じる。迅速に実施でき、ベッドサイドでの評価に適する。
4.3 鑑別診断
見た目の腫れだけでは確定できないため、他の腫脹性病変との区別が必要である。
4.3.1 浮腫
浮腫は液体の貯留による腫脹であり、触感は軟らかく、捻髪感は通常みられない。圧痕の有無が参考になる。
4.3.2 血腫
血腫は出血による膨らみで、打撲や手術後に生じやすい。皮下気腫と異なり、空気特有の感触は乏しい。
4.3.3 感染性腫脹
蜂窩織炎などの感染では、発赤、熱感、疼痛を伴う腫脹が起こる。ガス形成がなければ、捻髪感は通常認めない。
5 重症度評価
皮下気腫の重症度は、原因そのものだけでなく、進行速度、範囲、合併症の有無によって判断する。局所所見が軽くても、背景に重大疾患があれば緊急対応が必要となる。
5.1 緊急性の判断
呼吸困難、気道狭窄の兆候、血圧低下、意識障害、強い疼痛、急速な拡大がある場合は緊急性が高い。頸部や胸部の広範な病変では、早期介入が優先される。
5.2 合併症の評価
気胸、縦隔気腫、感染拡大、組織壊死、血行障害などを評価する。重症感染では、敗血症に進展する危険もある。
5.3 原因疾患の検索
外傷歴、最近の処置、呼吸器症状、腹部症状、感染徴候を確認し、原因となる病変を探す。皮下気腫自体の観察だけでなく、発生機序の特定が治療選択を左右する。
6 治療
治療は原因の是正を中心に行う。皮下気腫そのものが軽度であれば自然吸収を待つこともあるが、原因疾患への対応を怠ると再発や悪化につながる。
6.1 原因治療
背景にある損傷や感染を治すことが基本である。必要に応じて外科的介入を含める。
6.1.1 創部処置
外傷や術後の創では、洗浄、縫合、排液、異物除去などを行う。汚染創では感染予防も考慮する。
6.1.2 胸腔ドレナージ
気胸が原因であれば、胸腔内の空気を除去する処置が必要となる。空気漏出が止まらない場合は、持続的な管理が求められる。
6.1.3 抗菌薬投与
感染が疑われる場合は、広域抗菌薬を早期に開始する。壊死性軟部組織感染症では、抗菌薬だけでなく外科的処置が不可欠となる。
6.2 対症療法
原因治療を補う目的で、全身状態の安定化を図る。
6.2.1 安静
軽症例では、過度な動作を避けながら経過をみることがある。気腫の進行が止まれば自然に軽快する場合もある。
6.2.2 酸素投与
酸素投与は、体内の窒素分圧を下げ、気体の吸収を促す助けとなることがある。呼吸状態の補助としても有用である。
6.3 手術治療
深部損傷や重症感染がある場合には手術が必要となる。
6.3.1 緊急手術の適応
消化管穿孔、重度の気道損傷、進行する壊死性感染、制御不能な空気漏出などでは緊急手術が検討される。時間の遅れは予後を悪化させる。
6.3.2 壊死組織の切除
感染で壊死した組織は、十分に切除しなければ治癒が得られない。デブリードマンにより感染源を減らし、再建や追加処置へつなげる。
7 合併症
皮下気腫は単独では軽症でも、原因疾患や拡大により重大な合併症を生じうる。特に頸部・胸部病変では注意が必要である。
7.1 気道圧迫
頸部に広がると、喉頭周囲の腫脹により気道が狭くなることがある。嗄声、嚥下困難、喘鳴が前兆となる場合がある。
7.2 感染の進行
感染性の病変では、皮下から深部筋膜へ炎症が広がることがある。進行すると壊死や敗血症に発展する。
7.3 循環・呼吸への影響
広範な気腫や併発病変により、呼吸仕事量が増し、胸腔内圧の異常が生じることがある。重症例では循環不全にもつながる。
8 予後
予後は原因と重症度で決まる。限局した軽症例は良好な経過をたどることが多いが、重篤な基礎疾患がある場合は注意を要する。
8.1 軽症例の経過
外傷後や処置後の軽い皮下気腫は、原因が解消されれば数日から数週間で吸収されることが多い。追加治療を要しない場合もある。
8.2 重症例の転帰
気胸、消化管穿孔、壊死性感染症を伴う場合は、入院治療や手術が必要となり、予後は原因疾患の速やかな制御に左右される。治療遅延は不良転帰につながる。
8.3 再発と再発予防
再発は、未治療の空気漏出や感染源が残る場合に起こりうる。原因疾患を十分に治療し、再発リスクのある処置後には経過観察を行うことが大切である。
9 予防
予防は、外傷の回避、医療手技の安全管理、異常時の早期受診によって成り立つ。
9.1 外傷予防
交通安全、作業時の保護具使用、転倒対策は外傷性発生の抑制に役立つ。鋭利な物体による損傷を避けることも重要である。
9.2 医療処置時の注意
穿刺や挿管、内視鏡などでは、適切な手技と確認が必要である。処置後に腫脹や呼吸異常が出た場合は、早めの評価が望ましい。
9.3 早期受診の重要性
急な腫れ、強い痛み、息苦しさ、発熱を伴う場合は、自己判断せず医療機関を受診することが重要である。重症化の前に対応できれば、合併症を減らしやすい。
10 関連項目
縦隔気腫、気胸、壊死性筋膜炎、消化管穿孔、外傷、胸腔ドレナージ、酸素療法、画像診断