1 解剖

肺胞は肺の末端にある微小な袋状構造で、気道の最終部に配列している。ここで空気と血液のあいだのガス交換が行われるため、肺の機能単位として扱われる。成人では数億個に達し、密集した配置によって広い表面積をつくり出している。

1.1 肺の構造における位置

肺胞は細気管支のさらに末梢に連なる呼吸気管支から肺胞管、肺胞嚢へと続く領域に存在する。肺葉の内部で網目状に並び、肺実質の大部分を占める。気道の伝導部分とは異なり、ここから先は主として交換機能を担う。

1.2 肺胞の形態

肺胞は小さな空隙が多数集まった構造で、個々の腔は薄い壁で隔てられている。壁はきわめて薄く、空気側と血液側の距離を短く保つようにできている。周囲には毛細血管網が密に分布し、効率のよい物質移動を支えている。

1.2.1 肺胞壁

肺胞壁は、肺胞腔を囲む薄い境界層である。上皮、基底膜、間質、毛細血管内皮近接して並び、実質上はガス交換膜として働く。壁の薄さは拡散を容易にする一方、損傷を受けると機能低下が目立ちやすい。

1.2.2 肺胞隔壁

肺胞隔壁は、隣接する肺胞を区切る支持構造で、細い結合組織と血管成分を含む。弾性線維が分布しており、呼気後の復元や肺全体の伸縮に寄与する。ここが肥厚すると拡散障害の原因になりうる。

1.2.3 肺胞管と肺胞嚢

肺胞管は呼吸細気管支の末端から続く管状部分で、その壁に多数の肺胞が開口する。終端部では複数の肺胞が集まり、袋状の肺胞嚢を形成する。これらは空気の流れを分配し、広い接触面を確保する役割を持つ。

1.3 関連する細胞

肺胞の機能は、上皮細胞、免疫細胞、血管内皮細胞などの協調で成り立つ。とくに上皮細胞は構造維持と物質分泌に、免疫細胞は異物処理に重要である。

1.3.1 肺胞上皮細胞

肺胞上皮細胞は、扁平で薄い細胞と、分泌機能をもつ立方状の細胞に大別される。前者は主に拡散面を形成し、後者は界面活性物質の産生に関わる。両者は肺胞内環境の維持に不可欠である。

1.3.2 肺胞マクロファージ

肺胞マクロファージは肺胞腔内に存在する貪食細胞で、吸入粒子や微生物を処理する。防御に加えて、炎症反応の調節にも関与する。過剰な活性化は組織障害の一因となることがある。

2 生理

肺胞の中心的役割は、酸素を血液へ取り込み、二酸化炭素を体外へ出すことである。これらは単なる空気の出入りではなく、膜を介した拡散と血流の維持によって成立する。

2.1 ガス交換

ガス交換は、肺胞内の空気と毛細血管内の血液とのあいだで進む。酸素は血液へ移行し、二酸化炭素は逆方向に移動する。両者の流れが適切でなければ、全身の酸素供給に支障が生じる。

2.1.1 酸素の取り込み

吸気で肺胞内の酸素分圧が上昇すると、酸素は毛細血管血へ拡散する。ヘモグロビンへの結合によって運搬が効率化される。十分な取り込みには、換気、拡散、血流の調和が必要である。

2.1.2 二酸化炭素の排出

組織で産生された二酸化炭素は静脈血で肺へ運ばれ、肺胞へ拡散して呼気として放出される。二酸化炭素は酸素より拡散しやすく、膜障害があっても比較的保たれやすいが、重度の障害では排出も低下する。

2.2 拡散のしくみ

肺胞での物質移動は、分圧差を原動力とする拡散で説明される。膜の性質や距離が変化すると、交換効率も変わる。これが多くの肺疾患で問題となる基本機序である。

2.2.1 表面積の役割

肺胞は膨大な数が存在するため、総表面積が非常に大きい。面積が広いほど、同時に交換できるガス量が増える。肺気腫などで壁が破壊されると、この利点が失われる。

2.2.2 拡散距離の役割

空気と血液のあいだの距離が短いほど、ガスは速く移動する。肺胞壁や間質が厚くなると、酸素の取り込みが妨げられる。肺水腫や線維化では、この距離の延長が重要な病態となる。

2.3 肺胞の換気と血流

肺胞機能は、空気の供給と血液灌流のバランスに依存する。どちらかが不足すると、実際の交換は不十分になる。したがって、換気と血流の調和は生理学の基本概念である。

2.3.1 換気血流比

換気血流比は、肺胞への空気到達量と毛細血管血流量の関係を示す。理想的には両者が釣り合うが、部位によって差がある。比の崩れは低酸素血症や無効換気の原因になる。

2.3.2 低酸素性肺血管収縮

肺胞の酸素が不足すると、周囲の肺血管は収縮し、その領域への血流を減らす。この反応は、換気の乏しい部分への血液流入を抑える調節機構として働く。ただし、広範囲で起こると肺循環負荷が増す。

3 細胞と分子の働き

肺胞の機能は、細胞の分化、分泌、修復、免疫応答によって支えられる。分子レベルでは、界面活性物質が表面張力を調整し、虚脱を防いでいる。

3.1 肺胞上皮細胞の種類

肺胞上皮は異なる性質を持つ細胞群から成る。形態の違いが、そのまま役割の違いにつながっている。薄い細胞は交換面を、分泌性の細胞は安定化を担う。

3.1.1 一型肺胞上皮細胞

一型肺胞上皮細胞は非常に薄い扁平細胞で、肺胞表面の大部分を覆う。ガス交換の主たる場を形成し、拡散距離を最小限に保つ。細胞損傷を受けると交換効率が大きく低下する。

3.1.2 二型肺胞上皮細胞

二型肺胞上皮細胞は立方状で、界面活性物質を産生する。分泌機能に加え、損傷後に増殖して上皮の修復に関与する。肺胞上皮の再生において重要な細胞である。

3.2 界面活性物質

界面活性物質は肺胞内面を覆う物質で、表面張力を下げる働きを持つ。呼吸のたびに肺胞が安定して開いた状態を保つために不可欠である。欠乏すると虚脱しやすくなる。

3.2.1 成分

主成分はリン脂質で、加えて特定のたんぱく質を含む。脂質成分が物理的性質を左右し、たんぱく質は広がりや防御機能に関わる。これらの組み合わせが機能の基盤となる。

3.2.2 役割

界面活性物質は肺胞の表面張力を低下させ、呼気時の虚脱を防ぐ。さらに、肺胞の開存を助け、呼吸仕事量を減らす。感染防御にも一定の役割を果たす。

3.2.3 産生と分泌

主に二型肺胞上皮細胞で合成され、細胞内小体に蓄えられた後、必要に応じて放出される。分泌は呼吸運動や化学的刺激の影響を受ける。胎児期から発達し、出生後の呼吸適応にも重要である。

3.3 肺胞の防御機構

肺胞は外界に近いにもかかわらず、通常は清潔な状態を保つ。その背景には免疫細胞、表面物質、局所環境の相互作用がある。

3.3.1 肺胞マクロファージの働き

肺胞マクロファージは異物を取り込み、分解して除去する。死細胞や微粒子の清掃にも関与し、局所免疫の第一線を担う。反応が過剰になると炎症を増幅することがある。

3.3.2 粘液線毛系との違い

粘液線毛系は主に大気道で働き、粘液を線毛運動で移送する。一方、肺胞には明瞭な線毛装置がなく、マクロファージと上皮の機能で防御する。したがって、両者は場所も方法も異なる。

4 臨床

肺胞の障害は、呼吸困難、低酸素血症、感染、液体貯留など多様な病態として現れる。診断と治療では、構造変化と機能低下の両面を評価する必要がある。

4.1 肺胞に関係する主な疾患

肺胞は多くの肺疾患の主要な標的となる。炎症、破壊、浮腫、びまん性障害などによって交換機能が損なわれる。臨床像は原因ごとに異なるが、いずれも呼吸不全につながりうる。

4.1.1 肺炎

肺炎では肺胞内に炎症細胞や滲出液がたまり、空気の入り込みが阻害される。病原体感染が典型的だが、他の要因でも起こる。含気低下により酸素化が悪化する。

4.1.2 肺気腫

肺気腫は肺胞壁の破壊と拡張を特徴とし、交換面積が減少する。弾性の低下により呼気が困難になりやすい。慢性的な呼吸障害の代表例である。

4.1.3 肺水腫

肺水腫では肺胞や間質に液体が貯留し、ガス拡散が妨げられる。心原性と非心原性に大別される。症状としては呼吸困難と低酸素血症が目立つ。

4.1.4 急性呼吸窮迫症候群

急性呼吸窮迫症候群では、びまん性の肺胞障害により著しい低酸素血症が生じる。肺胞の虚脱、浮腫、炎症が複合して進む。重症例では人工呼吸管理が必要になる。

4.2 診断

肺胞病変の評価には、画像、機能、組織の三つの視点が重要である。どの検査も単独では不十分で、臨床状況と組み合わせて解釈する。

4.2.1 画像検査

胸部X線やCTは、肺胞性陰影、過膨張、間質性変化などを把握するのに有用である。病変の分布や広がりも確認できる。急性病変では経時変化の追跡が役立つ。

4.2.2 機能検査

肺機能検査では、換気障害や拡散能の低下を評価する。とくに拡散能の測定は肺胞膜の障害を反映しやすい。呼吸予備能の把握にも有用である。

4.2.3 病理組織学的評価

病理診断では、肺胞内の滲出、壁の肥厚、線維化、細胞浸潤などを直接確認する。必要に応じて生検材料が用いられる。形態学的所見は原因推定に役立つ。

4.3 治療と管理

治療は原因疾患に応じて異なるが、共通して酸素化の維持と肺胞機能の保全が重要となる。重症例では呼吸補助が中心的役割を果たす。

4.3.1 酸素療法

酸素療法は低酸素血症の是正を目的とする基本的手段である。投与方法は症状と重症度に応じて選ばれる。過不足のない管理が求められる。

4.3.2 呼吸管理

呼吸管理には、非侵襲的補助から人工呼吸まで含まれる。肺胞の虚脱防止や酸素化改善を意図して設定が調整される。過度の圧や容量は損傷を悪化させうる。

4.3.3 薬物療法

薬物療法は抗菌薬、利尿薬、抗炎症薬など、原因に応じて用いられる。界面活性物質の補充が必要な状況もある。治療効果は基礎病態の制御に左右される。

4.4 予後と合併症

予後は原因、重症度、治療開始の早さに大きく左右される。肺胞障害が広範囲に及ぶと、慢性的な機能低下を残すことがある。

4.4.1 呼吸不全

肺胞での酸素化や二酸化炭素排出が保てなくなると呼吸不全に至る。急速に進行する場合も、徐々に悪化する場合もある。全身状態への影響は大きい。

4.4.2 線維化

炎症や損傷の後に修復が過剰になると、肺胞隔壁が硬く厚くなる。これにより拡散距離が伸び、肺の伸展性も低下する。不可逆的な変化として残ることがある。

4.4.3 感染の再発

防御機構が弱まると、同じ部位に感染が繰り返し起こることがある。既存の構造障害や分泌異常が背景にある場合は再発しやすい。予防には基礎疾患の管理が重要である。