1 概要

気胸は、胸膜腔に空気が入り、肺が外側から圧迫されて縮む病態である。軽いものでは自覚症状が乏しい一方、進行すると胸痛や呼吸苦を生じ、緊急の処置を要することがある。発症様式背景疾患によって経過は大きく異なり、診断と治療の判断には重症度の把握が重要となる。

1.1 定義

気胸は、肺実質の外にある胸膜腔へ空気が侵入した状態を指す。結果として肺の膨らみが妨げられ、換気効率が低下する。空気の量や流入速度により、軽症から生命を脅かす状態まで幅がある。

1.2 胸膜腔と肺の関係

胸膜腔は、肺を包む臓側胸膜と胸壁側の壁側胸膜のあいだにある狭い空間である。通常は少量の液体によって滑らかな動きが保たれており、空気は存在しない。ここに空気が入ると陰圧が失われ、肺は胸壁に十分追随できなくなる。

1.3 発生のしくみ

気胸は、肺表面の小さな破綻や胸壁からの空気侵入によって起こる。肺胞やブラと呼ばれる薄い気腫性変化が破れる場合のほか、外傷や医療処置によって胸膜腔に空気が入る場合もある。空気の逃げ道が一方向に限られると、胸腔内圧が上昇して循環にも影響する。

2 種類

気胸は、発生原因や病態の違いにより複数に分類される。臨床では、背景の有無や緊急性が治療方針に直結するため、分類は実用的な意味をもつ。

2.1 自然気胸

自然気胸は、明らかな外傷や医療操作がなく生じる気胸である。若年者にみられるものから、基礎疾患を伴って起こるものまで含まれる。

2.1.1 原発性自然気胸

原発性自然気胸は、明らかな肺疾患がない人に発生する。比較的やせた若年男性に多い傾向があり、肺尖部の小さなブラの破綻が背景にあることが多い。突然の胸痛を契機に見つかることがある。

2.1.2 続発性自然気胸

続発性自然気胸は、慢性閉塞性肺疾患や間質性肺疾患など、既存の肺病変を基盤として起こる。肺の予備能が低いため、少量の空気漏れでも症状が強く出やすい。高齢者や呼吸機能が低下した人では、より慎重な対応が必要となる。

2.2 外傷性気胸

外傷性気胸は、胸部外傷によって肺や胸壁が損傷し、空気が胸膜腔に入る状態である。鈍的外傷と刺創などの穿通性外傷のいずれでも起こりうる。肋骨骨折や血胸を合併することもある。

2.3 医原性気胸

医原性気胸は、診断や治療のための医療行為に伴って発生する。中心静脈穿刺、胸部手技、肺生検などが代表例である。処置直後に生じることが多く、術後や手技後の観察早期発見される。

2.4 緊張性気胸

緊張性気胸は、胸膜腔内に入った空気が一方向にたまり続け、胸腔内圧が著しく上昇する危険な状態である。肺の虚脱だけでなく、縦隔偏位や静脈還流低下を招き、ショックに進展することがある。迅速な減圧が必要である。

3 原因と危険因子

気胸の背景には、体格、肺の状態、外的要因、再発しやすい性質などが関係する。原因の把握は、急性期の対応だけでなく、再発予防にもつながる。

3.1 生活習慣と体格

やせ型の若年男性は原発性自然気胸の発症が比較的多い。高所での活動、激しい運動、急激な気圧変化が誘因となる場合もある。喫煙は発症と再発の双方に関わる重要な危険因子である。

3.2 肺の基礎疾患

慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎気管支喘息、嚢胞性肺病変などは続発性自然気胸の素地となる。肺の弾性が低下していると、わずかな破綻でも空気漏れが起こりやすい。結核後遺症や肺嚢胞も関連することがある。

3.3 外傷と医療行為

胸部への打撲や刺傷は、直接の空気流入を引き起こす。医療行為では、穿刺部位や手技の条件によって合併症として気胸が起こることがある。画像誘導の使用や手技の熟練がリスク低減に寄与する。

3.4 再発の危険因子

過去の気胸歴は再発の大きな予測因子である。若年、喫煙継続、ブラやブレブの残存、基礎肺疾患の存在は再発率を高める。片側発症でも、反対側に同様の病変が潜むことがある。

4 症状

症状の強さは、気胸の大きさ、発症の速さ、合併する肺疾患の有無によって変わる。軽度では偶然発見されることもあるが、進行例では明確な呼吸循環症状を示す。

4.1 胸痛

もっとも典型的なのは突然の胸痛で、鋭い痛みとして自覚されることが多い。痛みは片側の胸部に限局し、深呼吸や咳で増強することがある。若年の自然気胸では、この訴えが初発症状になりやすい。

4.2 息切れ

呼吸困難や息切れは、肺の虚脱が大きいほど目立つ。基礎疾患をもつ人では、比較的軽い気胸でも呼吸の余裕が少なくなる。歩行時や会話時に苦しさが増すことがある。

4.3 咳

乾いた咳がみられることがあり、胸部違和感とともに出現する。強い咳そのものが誘因となる場合もあるが、多くは補助的な症状である。痰を伴わないことが多い。

4.4 重症例の症状

重症の気胸、とくに緊張性気胸では、呼吸だけでなく循環や意識にも影響が及ぶ。単なる胸痛よりも、全身状態の変化に注意が必要である。

4.4.1 呼吸困難の増悪

空気の貯留が進むと、呼吸困難は急速に悪化する。会話困難、頻呼吸、努力呼吸が目立つようになり、酸素化が低下する。慢性肺疾患がある場合は、少しの悪化でも重篤化しやすい。

4.4.2 血圧低下

胸腔内圧の上昇により静脈還流が妨げられると、血圧が下がることがある。冷汗、脈拍増加、四肢冷感を伴うこともある。これは緊急性の高い所見である。

4.4.3 意識障害

重度の低酸素血症や循環不全が進むと、意識レベルの低下が起こりうる。ぼんやりする、反応が鈍い、失神するなどの形で現れる。こうした場合は直ちに救急対応が求められる。

5 診断

診断は、症状の聞き取りと身体所見に加え、画像検査で確定する。重症例では、検査を待たずに処置が優先されることもある。

5.1 問診と身体診察

発症時期、胸痛の性質、外傷歴、基礎肺疾患、喫煙歴を確認する。診察では、呼吸音の左右差、胸郭の動き、頻呼吸、チアノーゼなどを評価する。緊張性気胸が疑われる場合は、迅速な判断が重要となる。

5.2 画像検査

画像検査は診断の中心である。空気の分布や肺の虚脱の程度、合併病変の有無を把握するために用いられる。

5.2.1 胸部エックス線検査

胸部エックス線検査は、最も広く用いられる初期検査である。胸膜線の描出や肺野の透亮性増加から気胸を判断する。臥位撮影では所見が分かりにくいことがある。

5.2.2 胸部断層撮影

胸部CTは、少量の気胸やブラ、基礎肺疾患の評価に有用である。再発例や原因精査でも役立つ。手術適応の検討にも情報を与える。

5.2.3 超音波検査

超音波検査は、救急現場やベッドサイドで迅速に利用できる。肺スライディングの消失などが手がかりになる。被曝がない利点があるが、操作者の熟練度に左右されやすい。

5.3 鑑別診断

胸痛や呼吸困難を示す疾患には、肺塞栓症、肺炎、胸膜炎、急性冠症候群などがある。症状だけでは区別が難しい場合があり、画像や検査所見を組み合わせて判断する。緊急性の高い病態を見落とさないことが重要である。

6 治療

治療は、気胸の大きさ、症状、病型、全身状態に応じて選択される。小さなものは保存的に経過を見る一方、呼吸循環に影響する場合は迅速な介入が必要となる。

6.1 経過観察

症状が軽く、肺の虚脱が小さい場合は経過観察が選ばれることがある。安静を保ち、画像で改善を確認する。再増悪の可能性があるため、帰宅後の注意点を明確に伝えることが大切である。

6.2 酸素投与

酸素投与は、低酸素血症の補正だけでなく、胸膜腔内の空気吸収を促す目的でも用いられる。呼吸苦がある場合の支持療法として有効である。重症度に応じて投与方法を調整する。

6.3 胸腔ドレナージ

中等度以上の気胸や症状の強い場合には、胸腔内にドレーンを留置して空気を排出する。肺の再膨張を促し、胸腔内圧を正常化する。入院管理が必要になることが多い。

6.3.1 閉鎖式ドレナージ

閉鎖式ドレナージでは、胸腔から出た空気を外界に漏らさず一方向に排出する。水封や専用装置を介して管理するのが一般的である。感染予防と排気効率の両立が求められる。

6.3.2 吸引管理

吸引管理は、肺の再膨張を促進するために陰圧をかける方法である。持続的な空気漏れがある場合や再膨張が不十分なときに用いられる。過度の吸引は合併症につながることがあるため、慎重に調整される。

6.4 手術療法

手術は、再発例、持続性の空気漏れ、原因病変の処理が必要な場合などに行われる。胸膜癒着やブラ切除が目的となることが多い。

6.4.1 胸腔鏡下手術

胸腔鏡下手術は、比較的小さな切開で行う低侵襲手術である。ブラの切除や空気漏れ部位の処理に適している。術後の疼痛が少なく、回復も比較的早い。

6.4.2 再発予防手術

再発予防手術では、病変部の切除に加え、胸膜癒着術などを組み合わせることがある。再発率を下げる目的で選択される。患者の年齢、職業、再発歴を踏まえて適応が決められる。

6.5 緊張性気胸への緊急対応

緊張性気胸では、診断を待たずに緊急減圧を行う。針穿刺やドレーン留置により胸腔内圧を下げ、循環不全を防ぐ。これは救命的処置であり、迅速な実施が最優先となる。

7 合併症

気胸は、単回の発症で終わらず、再発や遷延化を伴うことがある。治療手技に伴う問題も含め、経過観察中の注意が必要である。

7.1 再発

再発は気胸の代表的な合併問題である。特に自然気胸では、同側または反対側に再び起こることがある。初回発症後の生活指導と原因検索が重要になる。

7.2 持続性の空気漏れ

持続性の空気漏れは、肺や胸膜の損傷が閉じず、空気が出続ける状態である。ドレナージ期間の延長や手術の検討につながる。基礎肺疾患がある場合に長引きやすい。

7.3 呼吸不全

肺の虚脱が大きい場合や両側性の病変では、酸素化と換気が保てず呼吸不全に至ることがある。高齢者や肺機能の低い人では、少ない予備能が悪化を招きやすい。

7.4 感染症

胸腔ドレーン留置や手術後には、感染症のリスクがある。発熱、排液の性状変化、局所の発赤などに注意する。適切な管理と清潔操作が予防に役立つ。

8 予後と再発予防

予後は、気胸の種類、治療の速さ、基礎疾患の有無で左右される。再発予防には、生活習慣の見直しと医師の指示に沿った管理が欠かせない。

8.1 予後

原発性自然気胸は適切に対応すれば回復しやすいが、再発の可能性がある。続発性自然気胸は背景疾患の影響で重くなりやすく、予後は肺機能に大きく依存する。緊張性気胸は迅速な処置ができれば救命可能だが、遅れると危険性が高い。

8.2 再発予防の指導

禁煙は最も重要な予防策の一つである。再発歴がある場合は、手術適応や活動制限について個別に相談する。症状が再び出た際に早く受診できるよう、受診の目安を共有しておくことも大切である。

8.3 生活上の注意

回復期には、激しい運動や強い腹圧を伴う行為を控えるよう指導されることがある。航空機搭乗や高地活動は、医師の確認を受けてから再開するのが望ましい。日常生活では、胸痛や息切れの再出現に注意する。

9 参考情報

気胸は、突然の胸痛と息苦しさで発症することがあり、症状の変化を見逃さないことが重要である。軽症でも悪化する場合があるため、自己判断で放置しない姿勢が求められる。

9.1 受診の目安

片側の胸が急に痛む、深呼吸で痛みが増す、息切れが続く場合は受診が望ましい。以前に気胸を経験した人は、同様の症状が出た時点で早めの評価を受けるべきである。基礎肺疾患がある場合は、より早い相談が勧められる。

9.2 救急受診が必要な症状

強い呼吸困難、顔面蒼白、冷汗、血圧低下を思わせるふらつき、意識がぼんやりする症状は救急受診の対象である。外傷後に胸痛と息苦しさが出た場合も緊急性が高い。緊張性気胸が疑われるときは、直ちに救命処置が必要となる。