1 定義
四分位範囲(interquartile range)は、データを小さい順に並べたときに得られる第1四分位数と第3四分位数の差として定義される統計量である。中心部に相当する範囲の広がりを要約し、極端な値の影響を受けにくい点が特徴である。
1.1 第1四分位数と第3四分位数
第1四分位数は、並べ替えたデータのうち下側から全体の25%の位置にある値として解釈される。第3四分位数は、上側からみて25%の位置に相当し、結果として全体の中央50%の区間を与える基準点になる。どちらも「順位に基づく位置」を表すため、データの尺度が変換されても解釈が一貫しやすい。
1.2 四分位範囲の算出
四分位範囲は、次式で与えられる。 IQR = 第3四分位数 − 第1四分位数
この値が大きいほど、中央50%に含まれるデータの広がりが大きいことを意味する。逆に小さい場合は、中央部が比較的狭い範囲に集中していると考えられる。
1.3 四分位偏差との関係
四分位偏差は、四分位範囲を2で割った量として定義されることが多い。すなわち、中央50%の半分の幅を尺度として表す指標である。四分位範囲と同様に、分布の外側に現れる極端値に比較的左右されにくいという性質を共有する。
2 性質
四分位範囲が扱うのはデータの中央部であり、分布の形に対して特有の挙動を示す。特に、極端値が存在する状況や分布が非対称になる状況で、その頑健性が際立つ。
2.1 外れ値への頑健性
四分位範囲は第1四分位数と第3四分位数の差であるため、外れ値がこれらの四分位点の位置を大きく動かさない限り、値への影響が抑えられる。極端な観測があっても、データ全体の中央50%の区間が変わらなければ四分位範囲は大きくは変化しない。
2.2 データの散らばりの指標としての役割
四分位範囲は、ばらつきの評価において「中心部にどれだけ幅があるか」を示す。標準偏差が全データの変動を集約するのに対し、四分位範囲は中央領域に焦点を当てるため、分布が裾の厚い形状や歪んだ形状である場合でも、解釈が比較的安定しやすい。
2.3 標準偏差との比較
標準偏差は、平均との差の二乗を通じて分散を計算するため、極端な値ほど強い寄与を持つ。一方、四分位範囲は順位に基づく位置関係から求まるため、外れ値による急激な変化が生じにくい。したがって、極端値を含むデータでは四分位範囲のほうが実態に沿った「代表的な広がり」を示すことがある。ただし、分布が左右対称で尾が薄い場合には、標準偏差がより総合的な情報を反映しやすい。
3 求め方
四分位範囲の計算は、データの並べ替えと四分位点の決定手順に分解できる。四分位の置き方には複数の規則があり、どれを採用するかで値がわずかに変わる可能性がある。
3.1 データの並べ替え
まず、観測値を小さい順に並べる。並べ替えた結果を x(1) ≤ x(2) ≤ … ≤ x(n) と表す。以降の四分位数はこの順序表示に基づいて決定される。
3.2 四分位数の決定方法
第1四分位数と第3四分位数は、「データを四等分する位置」をどう値に割り当てるかで決まる。代表的な方法として、四分位点をデータの要素とみなす手順や、隣接する値の間を補間して推定する手順がある。
3.2.1 各種の算出規則
代表的な算出規則には、次のような系統がある。 1) 四分位点を特定の観測値として選ぶ方法(位置に最も近い要素を採用する考え方など) 2) 四分位点を補間により推定する方法(2つの観測値の間の比率で値を求める考え方など)
どの規則を使うかは、統計ソフトウェアや規格で異なることがある。したがって、比較や再現の目的では、採用した規則の明示が重要になる。
3.2.2 偶数個・奇数個のデータでの扱い
データ数が偶数か奇数かによって、中央付近の扱いが変わりうる。例えば、中央値を基準に下側と上側を分けて四分位点を求める規則では、中央の扱い(中央値自体を両側に含めるか、除くか)が影響することがある。補間方式でも、四分位点の理論上の位置が観測値のちょうど上に来るか、間に来るかで計算が変化する。
3.3 計算例
例として、データが 2, 4, 7, 9, 10, 13, 15 の7個であるとする。まず並べ替え済みなのでそのまま用いる。 このとき、第1四分位数は下位25%の位置、第3四分位数は上位25%の位置として決まるが、規則により解釈が分かれる可能性がある。ここでは代表的な「位置に基づく考え方」で概略計算を示す。一般に7個なら中央は4番目の値(9)付近となり、中央50%はおおむね2番目から6番目の範囲で捉えられる。その結果、第1四分位数を4、第3四分位数を13とすれば、四分位範囲は IQR = 13 − 4 = 9 となる。実際の値は、使用する四分位数規則によって微調整が起こりうるため、同一手順で再現することが望ましい。
4 応用
四分位範囲は、記述統計や可視化、外れ値の評価、分布比較など幅広い用途で利用される。特に、外れ値や歪みがあるデータでは有用性が高い。
4.1 記述統計
記述統計の要約として、中央値に加えて四分位範囲を提示すると、中心の位置と広がりを同時に伝えられる。中央値が代表値として働きやすい一方で、四分位範囲は「典型的なばらつき」を表すため、極端な値が混ざる状況でも全体像を損ないにくい。
4.2 箱ひげ図
箱ひげ図では、箱の左端と右端にそれぞれ第1四分位数と第3四分位数が対応し、箱の幅が四分位範囲に相当する。中央値は箱の内部に線として描かれることが多い。したがって箱の広さは中央50%の散らばりを直接視覚的に表し、分布の歪みや外れ値の存在も同時に読み取りやすい。
4.3 外れ値の検出
四分位範囲を用いる外れ値の考え方として、四分位範囲に基づく閾値(境界)が設定される手法がある。典型的には、箱の両端から四分位範囲の一定倍を超えて外側にある点を外れ値とみなす。ただし、どの倍率を採用するか、また判定規則をどう設計するかは目的に依存するため、実データの文脈で調整が必要になる。
4.4 分布の比較
分布比較では、四分位範囲の大きさを通じて中央部の幅を比べられる。たとえば、同程度の中央値でも四分位範囲が異なる場合、中心付近のばらつきが違うことを示唆する。さらに、箱ひげ図を並べれば、中央領域の幅だけでなく箱の位置や外側への広がりも一括で評価できる。統計的検定は別途必要だが、探索的分析の段階で有効な手がかりになる。