1 リンク関数の基本
1.1 定義と役割
リンク関数は、応答変数の期待値(平均)と、説明変数から作る線形予測子の間に成り立つ対応関係を与える変換である。一般に、線形予測子を \(\eta\)、応答の期待値を \(\mu\) とすると、リンク関数 \(g\) により \(g(\mu)=\eta\) の形で結び付けられる。
この仕組みにより、応答が取り得る範囲(例:正値のみ、0〜1の範囲など)を保ったまま、説明変数の線形な効果をモデルに組み込める。さらに、分散が平均に依存するようなデータ生成の特徴を、適切な確率モデルの選択と合わせて表現しやすくなる。
1.2 一般化線形モデルにおける位置づけ
一般化線形モデル(GLM)は、(1) 乱数部分(応答の分布族)、(2) 系統部分(線形予測子)、(3) 連結部分(リンク関数)から構成される。リンク関数は、分布族が定める平均構造と、説明変数の線形結合を接続する役割を担う。
GLMでは「平均がどう決まるか」を主に規定するため、リンク関数は当てはまりの良さだけでなく、推定される係数の解釈の仕方にも直結する。したがって、分布選択と同様に、リンクの選び方が実務上の重要論点になる。
1.3 線形予測子との関係
線形予測子 \(\eta\) は通常、説明変数の線形結合として \(\eta = X\beta\) と表される。リンク関数 \(g\) は、この \(\eta\) によって平均 \(\mu\) を決める「逆変換」を通じて理解できる。
すなわち \(\mu = g^{-1}(\eta)\) が成り立つため、線形予測子の増減が期待値をどの程度、どの方向へ変えるかが決まる。たとえば同じ係数変化でも、リンクが異なれば平均の変化率や増加の非線形性が変わるため、結果として異なる予測形状が得られる。
2 よく用いられるリンク関数
2.1 恒等リンク
恒等リンクは \(g(\mu)=\mu\) であり、線形予測子そのものが平均に一致する。したがって \(\mu=\eta\) となり、予測は最も直感的である。
2.1.1 適用条件と解釈
恒等リンクは、応答の取り得る範囲が平均として妥当に表現できる場合に適する。たとえば連続量で負値が許され、正規分布に近い振る舞いが想定できるときに整合的になりやすい。
ただし、平均が本来の範囲制約(正値のみや0〜1など)を破る可能性があるデータでは不適切になり得る。推定結果がその領域を越える場合、モデル化の前提に無理が生じ、当てはまりや推定の安定性が損なわれる。
2.2 ログリンク
ログリンクは \(g(\mu)=\log(\mu)\) であり、平均が正値であることを前提に \(\mu=\exp(\eta)\) を与える。線形予測子の増減が、平均の比として作用する形になる。
2.2.1 利得・比率のモデル化
ログリンクは「倍率」での変化を自然に扱える。係数 \(\beta_j\) がある説明変数に対応しているとき、その変数が1単位増加した効果は、平均の乗法的な変化として解釈される。
たとえば \(\exp(\beta_j)\) は、他の説明変数を一定にしたときの平均の倍率に対応する。これにより、件数や強度のように比率が意味を持つ対象で説明しやすい場合がある。
2.3 ロジットリンク
ロジットリンクは \(g(\mu)=\log\left(\frac{\mu}{1-\mu}\right)\) であり、\(\mu\) が0〜1の確率として解釈できる場合に用いられる。逆リンクは \(\mu=\frac{1}{1+\exp(-\eta)}\) で、シグモイド型の平均曲線を作る。
2.3.1 確率への変換とオッズの解釈
ロジットは、成功確率 \(\mu\) からオッズ \(\frac{\mu}{1-\mu}\) を作り、その対数を線形予測子に結び付ける発想に基づく。係数はオッズの比(オッズがどれだけ増えるか)として解釈できるため、「確率そのもの」よりも「相対的な起こりやすさ」を軸にした説明が可能になる。
また、説明変数が増えると確率は0と1の間に留まりつつ非線形に変化するため、境界を越えない予測が得られる。
2.4 プロビットリンク
プロビットリンクは \(g(\mu)=\Phi^{-1}(\mu)\) で定義される。ここで \(\Phi\) は標準正規分布の累積分布関数であり、逆変換により \(\mu=\Phi(\eta)\) の形になる。
ロジットリンクと同様に、平均が確率として0〜1に収まる特性を持つが、分布仮定や曲線の形の違いにより当てはまりが変わることがある。状況によっては推定の挙動や解釈のしやすさが異なるため、モデル比較の材料になる。
2.5 対数マイナス対数リンク
対数マイナス対数リンクは \(g(\mu)=\log(-\log(1-\mu))\) として表されることが多い。逆変換を通じて、\(\mu\) の変化に対して特有の非線形性が入り、特に「0に近い確率帯での変化」や「上側の伸び方」に特徴が現れることがある。
2.5.1 省略
(この節では追加の細分類は指定されていないため、本文は定義と位置づけに留める。)
2.6 その他の代表的リンク
実務では、応答の分布や科学的要請に応じて多様なリンクが使われる。例として、指数分布的な構造に合う設計、順序カテゴリに対応する設計、過分散やゼロ過剰を考慮する枠組みにおける連結の工夫などがある。
リンクは単なる数式の選択ではなく、予測曲線の形、パラメータの解釈、推定の収束性に影響する。したがって候補の比較を行い、診断結果と整合するものを選ぶという運用が一般的である。
3 性質と選択の観点
3.1 予測の範囲制約への適合
リンク関数は、逆リンクを介して平均(期待値)が許される領域に収まるかを左右する。確率なら0〜1、件数や正の強度なら正の範囲、分散が平均に依存する設定ではその整合性が重要になる。
適合性が悪いリンクは、推定中に平均が不適切な領域へ入りやすくなり、予測の解釈も困難になる。逆に、範囲を確実に満たす連結を採用すると、境界付近の挙動も自然に表現できる。
3.2 残差構造と当てはまり
リンクは「残差の見え方」を変える。たとえば平均の変換を通じて、同じ誤差でも観測尺度でのずれ方が異なり、系統的なパターン(曲線状の過不足)が現れるかどうかが変わる。
当てはまりの評価では、予測値と残差の関連、分散の均一性、点ごとの外れの偏りなどを確認することが多い。リンクが不適切だと、統計的に意味のある構造が残差に漏れやすくなる。
3.3 パラメータ解釈の違い
同じ \(\eta=X\beta\) でも、 \(\mu\) への写像が異なるため、係数が意味する変化は変わる。恒等リンクでは平均の加法的変化に近く、ログリンクでは倍率として、ロジットやプロビットではオッズや確率の変化として解釈する枠組みになる。
実務上は、対象の科学的な問いが「差」として語りたいのか、「比」や「相対的な起こりやすさ」として語りたいのかを明確にし、それに整合するリンクを選ぶと説明が容易になる。
3.4 数値計算上の安定性
推定は反復手順(例:逐次的に作る近似)に依存するため、リンクの選択は収束性に影響する。特に分母に現れる項(確率リンクでの \(1-\mu\) など)や、導関数の振る舞いが極端になる場合、更新量が過大または過小になり、発散や停滞が起きやすい。
また、初期値や変数のスケールにも左右されるため、リンクだけでなく標準化やオフセット、適切な分布の選び方と併せて調整する必要がある。
3.5 モデル選択(比較指標)
リンクの選択は、しばしばモデル比較の枠組みに組み込まれる。尤度に基づく指標、情報量規準、予測性能を評価する手法などを用い、どのリンクがデータをよりよく説明し、外挿に強いかを確認する。
ただし、比較指標は同じ分布族・同じ目的で実施されることが前提である。分布も同時に変わると原因が混ざるため、まずはリンクを固定し分布の妥当性を評価する、あるいは候補を限定して比較する、といった手順が実務では採用される。
4 実務上の使い方
4.1 適切な分布と組の考え方
リンク関数は、選ぶ分布族と一体で考える必要がある。GLMでは「平均構造(リンク)」と「分散構造(分布族に内在)」が噛み合って初めて有効になるため、リンクだけを変えても意味が薄い場合がある。
具体的には、応答が二値ならベルヌーイや二項、正の連続や計数なら適切な正値分布やポアソン系の分布族など、データ生成の性質に合わせた組合せを検討する。リンクはその組の下で平均の制約や曲線の形を決める部品である。
4.2 典型的な手順(推定・診断)
実務の流れとしては、(1) 応答と目的変数の性質を確認し分布族を仮置きする、(2) リンク候補を絞り込み、同じ説明変数集合の下で推定する、(3) 当てはまり診断(残差、予測曲線、外れの位置)を行う、(4) 必要に応じて再調整して比較する、という順序が多い。
診断では、特定の説明変数の範囲で体系的に外れる兆候や、平均と分散の関係が合っていない兆候を重点的に見る。最終的には予測精度だけでなく、解釈の一貫性も含めて採否を決める。
4.3 例:回帰・分類への適用
回帰では、平均の変換により直線効果を非線形な平均曲線として反映する。たとえば正値の強度を扱うとき、ログリンクを用いることで倍率的な変化を表しやすくなる。連続量でも、分散が平均と連動する場合にはリンクと分布族の整合が重要になる。
分類(確率の当てはめ)では、ロジットやプロビットが典型である。予測された確率が0〜1に収まり、説明変数の増加に伴う確率の変化がなめらかに表現される。用途によっては、確率のキャリブレーションやしきい値に基づく意思決定性能も確認される。
4.4 よくある誤りと対策
よくある誤りとして、応答が取り得ない範囲なのに不適切なリンクを選ぶことが挙げられる。これにより予測が破綻したり、推定が不安定になることがある。対策として、逆リンクの範囲制約を先に確認し、候補を見直す。
もう一つは、分布族とリンクを独立に考え、平均と分散の関係がデータと合っていない状態で推定してしまう点である。対策として、分散の傾向を観察し、分布族の変更も含めて検討する。また、残差診断を省略すると、誤ったリンクが残差に構造を残したまま見逃されるため、診断工程を確実に行うことが重要になる。
4.5 ソフトウェア実装の留意点
実装では、リンク関数の指定が分布族の選択や推定アルゴリズムの挙動に影響する。多くの統計ソフトではリンクの選択項目が用意されているが、同じ語でも実装側の定義が微妙に異なることがあるため、文書の確認が望ましい。
また、データ型(整数・連続)、欠測値処理、オフセット項、過分散を扱う拡張(準尤度や拡張GLMなど)の有無は、結果の解釈に影響する。収束しない場合は、説明変数のスケーリング、初期値の変更、モデルの単純化、分布仮定の見直しといった手順で原因を切り分けるのが実務的である。