累積分布関数(CDF)の概要

定義と基本形

累積分布関数(累積分布関数; CDF)は、確率変数 \(X\) について、任意の実数 \(x\) に対し \[ F(x)=P(X\le x) \] で与えられる関数である。確率空間上の確率測度に基づくため、分布の形(連続・離散)を問わず共通の記法で記述できる点が特徴となる。

また、CDFは「値がしきい値以下となる確率」を累積的に並べたものとして理解でき、分布全体を一つの関数にまとめて扱える。

分布の情報を表す意味

CDFは、確率変数がある範囲に入る確率を、境界値の関数として表す。たとえば \(x\) を増やしていくと「それまでの値がどれほど集まっているか」に対応するため、分布の位置・広がり・裾の挙動などの定性的特徴が読み取れる。

さらに、CDFは密度質量といった局所的な情報を統合した形なので、確率分布の性質を比較する際の共通言語としても機能する。

CDFの代表的な性質

単調増加性

CDFは \(x\) の増加に伴い非減少になる。すなわち \(x_1<x_2\) なら \[ F(x_1)\le F(x_2) \] が成り立つ。これは事象 \(\{X\le x_1\}\) が \(\{X\le x_2\}\) の部分集合になることに対応しており、確率の基本性質から導かれる。

したがって、CDFは「しきい値を緩めるほど確率が減らない」という解釈を持つ。

境界条件極限値)

CDFは極限で 0 と 1 に近づく。典型的に、

  • \(x\to -\infty\) のとき \(F(x)\to 0\)
  • \(x\to +\infty\) のとき \(F(x)\to 1\)

が成り立つ。これは、きわめて小さいしきい値以下に入る確率はほぼ 0、十分大きいしきい値以下に入る確率はほぼ 1 になるという一般的状況に基づく。

だし、厳密には分布の定義域や測度の置かれ方によって極限の現れ方は調整されることがあるが、CDFの基本像としてこの境界挙動は理解される。

連続性とジャンプの解釈

CDFは一般に右連続である。つまり \[ \lim_{h\downarrow 0}F(x+h)=F(x) \] が成り立つ。

また、連続点でない場合には \(F\) の「跳び(ジャンプ)」が生じることがある。このジャンプ量は、ある点に質量(離散的な確率)がたまっていることを示す。具体的には \[ \Delta F(x)=F(x)-\lim_{h\downarrow 0}F(x-h) \] が正になるとき、その点での確率の存在が反映される。直感的には、連続的に増える分に加えて、特定の値に確率が集中して一気に累積が進む状態である。

確率との関係

確率の計算への使い方

CDFは確率計算を「分布の累積の差」として実行できる。基本式として \[ P(X\le x)=F(x) \] はそのまま使える。

さらに、上側・下側の制限がある確率も CDF から組み立てられる。分布のパラメータが既知であれば、任意の境界に対して CDF を評価し、その差から確率を得る方法が用いられる。

関連する等式と不等式

区間確率導出

区間に入る確率は、CDFの値を用いて表現できる。たとえば \[ P(a<X\le b)=F(b)-F(a) \] のように差で表せる。

境界の向きが異なる場合(\(<\) と \(\le\) の違い)は、ジャンプの有無により式の形が変わる。CDFの右連続性の性質を踏まえ、どちら側の境界を含むかを明確にすると、正しい差分表示が得られる。

連続型・離散型での違い

連続型では、点に確率が集中しないため、境界の取り方(厳密に含めるか含めないか)による差が縮退しやすい。結果として、区間確率はしばしば密度の積分に対応する形で整理される。

一方、離散型ではある値に確率質量が乗るため、例えば \(P(X\le x)\) と \(P(X< x)\) の差はその点の質量に相当する。CDFが持つジャンプが、境界条件の差として現れる点が重要である。

連続型と離散型のCDF

連続型(確率密度関数がある場合)

連続型の確率変数では、確率密度関数 \(f(x)\) が存在し、CDFは積分で表されることが多い。典型的には \[ F(x)=\int_{-\infty}^{x} f(t)\,dt \] と書ける。

この形により、累積がなめらかに進むため、CDFは連続的な増加を示しやすい。厳密には分布の種類によって滑らかさの程度は異なるが、「点にジャンプが立ちにくい」という性質が目安となる。

密度とCDFの関係

連続型では、CDFの微分が密度に対応する場合がある。すなわち、適切な条件下で \[ f(x)=\frac{d}{dx}F(x) \] が成り立つ。逆に、密度が既知なら、上式の積分によって CDF を再構成できる。

この相互関係により、局所的な確率の変化(密度)と、累積された確率(CDF)を行き来して解析できる。

離散型(確率質量関数がある場合)

離散型では確率質量関数 \(p(k)=P(X=k)\) を考えられる。CDFは \[ F(x)=\sum_{k\le x} p(k) \] のように、値をまたいで累積和として表現される。ここで「\(\le x\)」の範囲に入る点集合を足し上げるため、CDFは階段状の形になりやすい。

階段の各段の高さは、その値における確率質量に対応する。

ジャンプ量と確率

ある値 \(x\) におけるジャンプ量は、その点での確率質量と一致する。具体的には、右連続の性質に基づき、 \[ P(X=x)=F(x)-\lim_{h\downarrow 0}F(x-h) \] で与えられる。

したがって、CDFの階段がどこで上がるか(ジャンプの位置)と、どれくらい上がるか(ジャンプ量)が、確率分布の「点の配置」と「重み」を直接表す。

混合分布の考え方

混合分布は、連続成分と離散成分の双方を持つ分布として理解される。CDFはこの場合、連続部分はなめらかな増加として、離散部分はジャンプとして現れる。

そのため、CDFのグラフでは、ある範囲で滑らかに増える一方、特定の点で段差が見られる。CDFという統一的な表現により、異なるタイプの成分が同一枠で読み取れる点が利点となる。

応用と周辺概念

分位数パーセンタイル

分位数は、CDFを使って定義できる代表的な概念である。一般に、確率 \(q\in(0,1)\) に対し、分位点(\(q\)-分位数)を \[ x_q=\inf\{x\in\mathbb{R}\mid F(x)\ge q\} \] として定める。

この定義により、\(x_q\) は「確率 \(q\) まで累積する位置」に対応し、パーセンタイルとして実データの要約に用いられる。離散的な分布では、同じ \(q\) に対して幅を持つ解釈が生じ得るが、上式のような最小境界として整理することで一意性を保てる。

逆関数と分布生成(確率シミュレーション

確率シミュレーションでは、乱数 \(U\sim \text{Uniform}(0,1)\) から、目標分布 \(X\) を生成する操作がしばしば行われる。CDF \(F\) が与えられたとき、分位関数(擬逆関数)を用いて \[ X=F^{-1}(U) \] とする方法が代表的である。

連続型では逆関数が自然に定義されることが多いが、離散成分がある場合には厳密な逆写像でなく、上で述べた分位点に基づく擬逆関数を用いる。これにより、CDFが持つジャンプも含めて、分布の形を忠実に再現できる。

回帰推定ではなく分布の評価での利用(考え方)

回帰やパラメータ推定そのものではなく、「分布をどう評価するか」という観点でも CDF は有用である。たとえば、観測されたデータから経験的分布関数を作り、それが理論上の CDF とどれほど整合しているかを見る考え方がある。

この種の比較では、累積の差が全域でどの程度か、特定の領域で偏りが生じていないか、といった観点が検討される。CDFを介した比較は、密度推定よりも安定しやすい場面があり、分布全体の整合性を直感的に捉えるための枠組みとして位置付けられる。