1 歴史

1.1 創設期(1900年〜1910年代)

1900年、鉄鋼王として知られる実業家アンドリュー・カーネギーは、ピッツバーグに実践的な技術教育を提供する高等教育機関を設立する構想を発表した。同年にカーネギー工科大学(Carnegie Technical Schools)として認可され、当初は夜間課程の職業訓練校としてスタートした。1905年にはアンドリュー・カーネギーのさらなる寄付により、4年制の工科大学へと発展。1912年には、初代校長アーサー・A・ハムシャーの指導のもと、本格的な学位授与機関としての基盤が整えられた。

1.2 発展期(1920年代〜1960年代)

1.2.1 カーネギー工科大学の拡大

1920年代から1930年代にかけて、カーネギー工科大学は工学分野での評価を高め、研究機関としての性格を強めた。第二次世界大戦中は、連邦政府との協力により軍事研究や技術開発に貢献。戦後はマンハッタン計画の成果を活かした原子力研究や、新たな材料科学の分野で成長を遂げた。1950年代には大学院教育を充実させ、全米有数の工科大学としての地位を確立した。

1.2.2 マーガレット・モリソン・カーネギー女学院の設立

1913年、アンドリュー・カーネギーの妻マーガレット・モリソン・カーネギーの名を冠したマーガレット・モリソン・カーネギー女学院(Margaret Morrison Carnegie College for Women)が開設された。これは女性に実用的な職業教育を提供することを目的とし、家政学、幼児教育、デザイン、秘書学などのプログラムを提供した。同学院は1960年代まで独立した組織として運営された。

1.3 統合近代(1967年〜現在)

1967年、カーネギー工科大学とマーガレット・モリソン・カーネギー女学院が統合され、現在のカーネギーメロン大学(Carnegie Mellon University)が誕生した。この統合により、技術と芸術が融合したユニークな教育理念が打ち出された。1970年代以降、コンピュータサイエンスとロボット工学の分野で先駆的な研究を展開。1990年代にはスクール・オブ・コンピュータサイエンスが独立した学部として設立され、世界的な名声を獲得した。2000年代以降はシリコンバレーやカタール、ルワンダなどへのキャンパス拡張を進め、グローバルな教育研究ネットワークを構築している。

2 キャンパス

2.1 ピッツバーグメインキャンパス

メインキャンパスはピッツバーグ市オークランド地区に位置し、約140エーカーの敷地を有する。周辺にはピッツバーグ大学や数多くの博物館医療機関が集積する学術文化ゾーンを形成している。

2.1.1 建築様式象徴的建造物

キャンパス建築は、初期のネオゴシック様式から現代的なガラス張りの建物まで多様な様式が混在する。代表的な建造物としては、アンドリュー・カーネギーが寄贈したカーキー図書館(Carnegie Library)をはじめ、ホール・オブ・エンジニアズ、ドハティホールなどが挙げられる。また、現代建築の傑作として、スティーブン・ホールが設計したコレギウム・オブ・ファインアーツや、ノーマン・フォスター設計のゲイツ・ヒルマン・センターがある。

2.1.2 主要施設(図書館、研究所、劇場)

メイン図書館はハント図書館であり、300万冊以上の蔵書を誇る。その他、工学・科学分野に特化したソーエン図書館、演劇芸術専門のポズナー図書館が存在する。研究所としては、ロボット工学研究所(Robotics Institute)、ソフトウェア工学研究所(Software Engineering Institute)がキャンパス内に主要施設を構える。劇場施設としては、フィリップ・シャック演劇センターやチャーチル・シアターがあり、スクール・オブ・ドラマの公演が定期的に行われている。

2.2 サテライトキャンパス(シリコンバレー、カタール、ルワンダなど)

2002年にカリフォルニア州シリコンバレーにサテライトキャンパスを開設。ソフトウェア工学やコンピュータサイエンスの大学院プログラムを提供している。2004年にはカタールのドーハにカーネギーメロン・カタール校を設置し、中東地域での国際教育を展開。さらに2011年にはルワンダ・キガリにアフリカキャンパスを開設し、アフリカ大陸での情報技術教育を推進している。これらのキャンパスは現地のパートナー機関と連携し、学位プログラムや共同研究を行っている。

3 学術組織

3.1 学部教育

カーネギーメロン大学は7つの学部・スクールから構成される。学部生は約7,000人で、全学生数の約40%を占める。入学選考は非常に厳しく、全米でもトップレベルの難関校として知られる。

3.1.1 カーネギー工科大学

工科大学(College of Engineering)は化学工学、土木工学、電気工学、機械工学、材料科学工学などの伝統的工学分野に加え、バイオメディカル工学や工科管理学などの学際プログラムを提供する。全米の工科大学ランキングで常に上位に位置する。

3.1.2 スクール・オブ・コンピュータサイエンス

スクール・オブ・コンピュータサイエンス(School of Computer Science, SCS)は、コンピュータ科学、人工知能、計算生物学、ヒューマンコンピュータインタラクション、ロボティクス、計算機言語学など多岐にわたるプログラムを提供する。1988年に独立したスクールとして設立され、現在では全米No.1の評価を獲得することもある世界的名門である。

3.1.3 スクール・オブ・ドラマ

スクール・オブ・ドラマ(School of Drama)は1914年に設立され、演劇教育のパイオニア的存在である。演技、演出、脚本、舞台技術、照明デザイン、音響デザイン、衣装デザインなど、演劇制作の全領域をカバーする。毎年100以上の公演を上演し、ブロードウェイやハリウッドに多くの卒業生を送り出している。

3.1.4 その他の学部(経営学部、人文社会科学部など)

テッパー・スクール・オブ・ビジネスは経営学の学部・大学院プログラムを提供し、特にオペレーションズリサーチと情報システム分野で高い評価を得ている。ディートリッヒ・カレッジ・オブ・ヒューマニティーズ・アンド・ソーシャルサイエンシズは、経済学、心理学統計学、歴史学、現代言語学などの分野でリベラルアーツ教育を提供する。さらに、美術学部(カレッジ・オブ・ファインアーツ)は建築、デザイン、美術、音楽の各スクールから構成される。

3.2 大学院教育

大学院生は約8,000人在籍し、修士・博士課程が提供されている。ビジネススクール(MBA)、公共政策大学院(ハインツ・カレッジ)、情報システム管理、計算機言語学など、専門職向けプログラムも充実している。大学院研究は外部資金によるプロジェクトが多く、産業界との連携も活発である。

3.3 研究センターと研究所

大学内には50以上の研究センター・研究所が設置されている。主要なものとして、ロボット工学研究所、ソフトウェア工学研究所、人間とコンピュータの相互作用研究所、データサイエンスセンター、エネルギー研究所、認知脳イメージングセンターなどが挙げられる。これらの多くは学際的であり、複数の学部が協力して運営されている。

4 研究とイノベーション

4.1 ロボット工学研究所

ロボット工学研究所(Robotics Institute)は1979年に設立され、全米で最も古くかつ最大規模のロボティクス研究機関である。自律移動ロボット、医療ロボット、火星探査ローバー、ドローン、ソフトロボティクスなど幅広い分野で先駆的研究を展開。NASAの火星探査ミッションに使用されたローバーの制御システム開発にも貢献した。所員は200名以上の教員・研究者を擁し、毎年数多くの特許と論文を生み出している。

4.2 ソフトウェア工学研究所

ソフトウェア工学研究所(Software Engineering Institute, SEI)は1984年に米国国防総省の支援で設立された研究開発センター。ソフトウェアの品質、セキュリティ、プロセス改善の分野で国際的な標準を開発している。特に能力成熟度モデル統合(CMMI)は、ソフトウェア開発組織の成熟度評価モデルとして世界中で採用されている。また、サイバーセキュリティ研究でも有名であり、CERTコーディネーションセンターを運営している。

4.3 人工知能と機械学習の研究

カーネギーメロン大学は人工知能研究のメッカの一つである。1956年のダートマス会議に参加したアレン・ニューウェルとハーバート・サイモンは、初期のAI研究をリードした。その後も機械学習、自然言語処理、コンピュータビジョン、強化学習の分野で多くのブレークスルーを達成している。最新の研究では、自動運転、医療診断支援、ゲームAI、ロボットの自動学習などが活発に研究されている。

5 学生生活

5.1 学生寮と居住コミュニティ

キャンパス内にはさまざまなタイプの学生寮が用意されている。1年生は原則として寮生活が義務付けられており、伝統的なドミトリー形式からアパートメント形式まで選択肢がある。また、テーマ別居住コミュニティとして、外国語ハウス、エンジニアリングハウス、持続可能性ハウスなどがあり、学生が共通の関心を持つ仲間と生活できる環境が整っている。寮外居住者はキャンパス周辺のオークランド地区やシェイディーサイド地区に住むことが多い。

5.2 学生団体とクラブ活動

400以上の学生団体が登録されており、学術系、文化系、スポーツ系、サービス系、芸術系など多様な活動が行われている。代表的な団体として、学生新聞「ザ・タートル(The Tartan)」、学生ラジオ局WRCT、ロボット工学サークル、演劇クラブなどがある。特にロボット工学サークルは、国際的なロボットコンテストで多数の受賞歴を持つ。

5.3 伝統とイベント(カーキーパレード、スプリングカーニバルなど)

年に一度の「スプリングカーニバル」は、学生のチームが巨大な遊戯施設やパフォーマンスを披露する伝統行事であり、1944年から続いている。「カーキーパレード」は新入生を歓迎するパレードで、各寮がテーマに沿った山車を作って行進する。また、「ムーンライト・ドリーム」は学期末の深夜に行われる学内イベントで、学生がリラックスする機会として親しまれている。

6 対外関係

6.1 スポーツ(タートルズとタトルス)

カーネギーメロン大学のスポーツチームは「タートルズ(Tartans)」という愛称で知られている。スコットランドのタータンチェックに由来する。全米大学体育協会(NCAA)のディビジョンIIIに所属し、主に大学体育協会の大学運動連盟(UAA)で競技を行っている。特に陸上競技、テニス、バスケットボール、サッカー、バレーボールなどで活発である。マスコットはスコットランドの伝統的な甲冑をまとった「スコッティ・タートル」である。

6.2 著名な卒業生

6.2.1 ノーベル賞受賞者

カーネギーメロン大学は、卒業生や教員の中から多数のノーベル賞受賞者を輩出している。ハーバート・サイモン(経済学、1978年)、ジョン・F・クラウザー(物理学、2022年)などが代表例であり、チューリング賞受賞者も多数在籍・出身している。

6.2.2 テクノロジー業界のリーダー

著名なテクノロジーリーダーとして、アンディ・ルビー(Android創業者)、ジェームズ・ゴスリング(Java言語の生みの親)、エド・キャットマル(ピクサー共同創業者)、ジェフリー・H・ベゾス(Amazon創業者:ただし中退)などがいる。その他、Google、Apple、Microsoft、Facebookなどの主要IT企業に多数の卒業生が在籍している。

6.2.3 芸術・エンターテインメント分野の著名人

演劇スクール出身者には、俳優のリー・ペイス、デヴィッド・クローネンバーグ(映画監督)、デレク・シルヴァーズ(『マッドメン』プロデューサー)などがいる。作曲家のフィリップ・グラスも卒業生の一人である。

6.3 ランキングと評価

複数の主要大学ランキングにおいて、カーネギーメロン大学は全米総合大学で20位台前半、世界ランキングでは50位前後に位置する。特にコンピュータサイエンス分野では世界トップ5の常連であり、人工知能、ロボティクス、演劇、経営学の各専門分野でもトップ10にランクインする。研究資金や産学連携の評価も高い。また、学生の平均SATスコアや卒業率などの指標でも全米トップクラスである。

7 付属施設

7.1 付属図書館

大学図書館システムは、ハント図書館(人文・社会科学)、ソーエン図書館(工学・科学)、ポズナー図書館(演劇・美術)の3館を核として、各学部図書室が連携している。オンラインジャーナルやデータベースへのアクセスも充実しており、年間数百万件の利用がある。特別コレクションとして、アンドリュー・カーネギー文書や初期のロボット工学関連資料を所蔵する。

7.2 美術館と博物館

キャンパス内には「ミラー・ギャラリー」があり、学生や教員の作品展示が行われる。また、「シータック美術館」は隣接するピッツバーグ大学と共用する施設で、現代美術のコレクションを有する。大学博物館として、キャンパスの歴史を紹介する「カーネギーメロン歴史展示室」がある。さらに、スクール・オブ・ドラマの衣装や舞台模型を収蔵する「演劇博物館」も存在する。

8 関連項目

  • アンドリュー・カーネギー
  • ピッツバーグ大学
  • 全米大学協会
  • チューリング賞
  • ロボット工学
  • ソフトウェア工学
  • マーガレット・モリソン・カーネギー
  • カタール教育都市
  • シリコンバレー