1 定義

1.1 ローラン級数による定義

複素関数 \(f(z)\) が点 \(z_0\) の近傍で解析的に表せる範囲を除き、\(z_0\) を含む一つの環状領域(たとえば \(0<z-z_0&lt;R\))上でローラン級数

\[ f(z)=\sum_{n=-\infty}^{\infty} a_n (z-z_0)^n \] として展開できるとする。このとき、\(z_0\) における \(f\) の留数とは、級数中の \((z-z_0)^{-1}\) の係数 \(a_{-1}\) を指す。 \[ \operatorname{Res}(f,z_0)=a_{-1} \] 留数は、特異点の“逆数項の大きさ”を定量化する量として働き、局所展開の情報を大域的な積分評価へ結びつけるための中核概念になる。

1.2 特異点と留数

特異点は一般に極、必須特異点などの形に分類される。留数はその分類独立に定義できるが、実際の計算では特異点の性質により有効な手法が変わる。たとえば、極に近い振る舞いをもつ場合、ローラン級数の有限個の負べき項が現れ、留数はその中で \((z-z_0)^{-1}\) に対応する係数として自然に決まる。必須特異点のように負べきが無限に続く場合も、留数は \((z-z_0)^{-1}\) の係数として同様に定義されるため、局所展開を通じた評価が可能になる。

1.3 留数の記法

留数は一般に \[ \operatorname{Res}(f,z_0) \] と書かれる。場面によっては \(z_0\) が省略されて \(\operatorname{Res}(f)\) のように表記されることがあるが、その場合は文脈から特異点が一意に定まる。さらに、周回積分との対応が重要なため、留数を複素積分で表す表現(後述)も頻繁に用いられる。

2 基本性質

2.1 線形性

留数は線形写像として振る舞う。具体的には、定数 \(c\) に対し \[ \operatorname{Res}(c f,z_0)=c\,\operatorname{Res}(f,z_0) \] が成り立ち、また関数の和について \[ \operatorname{Res}(f+g,z_0)=\operatorname{Res}(f,z_0)+\operatorname{Res}(g,z_0) \] となる。したがって、複雑な関数を分解して考えると、留数は項ごとに独立に集計できる。

2.2 留数と正則性

\(f\) が点 \(z_0\) の近傍で正則であるなら、ローラン級数には負べき項が存在しないため、\((z-z_0)^{-1}\) の係数はゼロとなり \[ \operatorname{Res}(f,z_0)=0 \] が従う。逆に、留数がゼロでも必ず正則であるとは限らない。必須特異点や高次極のように、負べき項はあるが \((z-z_0)^{-1}\) の係数だけが消える状況があり得るためである。

2.3 留数の一意性

同一の点 \(z_0\) に対し、\(f\) がその点の近傍でローラン級数として展開できるとき、\((z-z_0)^{-1}\) の係数は展開半径に依らず一意に定まる。従って留数も一意に定義される。これは解析性の局所性と、ローラン級数の係数が環状領域で同一になることに由来する。

3 留数の計算方法

3.1 単純極の場合

3.1.1 極の次数が一のときの計算式

\(z=z_0\) が \(f\) の単純極(次数が一)であるとき、留数は \[ \operatorname{Res}(f,z_0)=\lim_{z\to z_0}(z-z_0)f(z) \] で求まる。極の主要部分が一階の負べき項に対応するため、極を打ち消す操作で係数が直接取り出せる。

3.1.2 分子分母の形からの計算

多くの具体例は有理関数の形 \[ f(z)=\frac{p(z)}{q(z)} \] で与えられる。ここで \(q(z_0)=0\) かつ \(z_0\) が単純極になるとは、\(q&#039;(z_0)\neq 0\) を意味する。このとき \[ \operatorname{Res}\left(\frac{p(z)}{q(z)},z_0\right)=\frac{p(z_0)}{q&#039;(z_0)} \] が成り立つ。分母の一次零点によって生じる振る舞いを、テイラー展開の先頭項から直接抽出できる。

3.2 高階極の場合

3.2.1 一般公式

\(z=z_0\) が \(f\) の次数 \(m\) の極をもつ場合、留数は次の一般公式で計算できる。 \[ \operatorname{Res}(f,z_0)=\frac{1}{(m-1)!}\lim_{z\to z_0}\frac{d^{m-1}}{dz^{m-1}}\left[(z-z_0)^m f(z)\right] \] \((z-z_0)^m f(z)\) が正則になることを利用し、必要な次数だけ導関数を取って \((z-z_0)^{-1}\) の係数を取り出す。

3.2.2 導関数を用いる方法

実務上は、一般公式の形をそのまま用い、\((z-z_0)^m f(z)\) を整理したのち、\(z\) に関する導関数を計算して極限により値を確定する。導関数計算が煩雑な場合でも、対象の関数の対称性や分解の工夫で計算量を減らせることが多い。

3.3 ローラン展開を用いる方法

留数は定義そのものとして、ローラン級数の係数を直接読めばよい。具体的には、\(f(z)\) を \((z-z_0)^{-1}\) のべきが現れる形に変形し、正則部分の展開と組み合わせて負べき項を決定する。テイラー展開との組み合わせで、逆べきの係数だけを効率的に特定する計算が可能になる。

3.4 部分分数分解を用いる方法

有理関数で、分母が一次因子や既約因子の積に分解できるとき、部分分数分解により \[ f(z)=\sum_k \sum_{j=1}^{m_k} \frac{A_{k,j}}{(z-z_k)^j} \] のような形に書き換える。すると留数は各項のうち \(j=1\) に対応する係数の総和として得られる。たとえば \(\frac{A_{k,1}}{z-z_k}\) の係数が直接留数になるため、計算の見通しが良くなる。

4 留数定理

4.1 定理の内容

留数定理は、閉曲線積分を留数の和で表す結果である。\(f\) が有界な領域内で有限個の孤立特異点のみを持ち、閉曲線 \(C\) がそれらを一周しているとする。このとき \[ \oint_C f(z)\,dz = 2\pi i \sum_{k} \operatorname{Res}(f,z_k) \] が成り立つ。積分路に依らず、特異点における局所データだけが積分値を決定する点が本質である。

4.2 閉曲線積分との関係

留数定理は留数が“積分の係数”であることを示す。曲線上での正則性が保証されれば、曲線を連続変形しても積分値は変わらない。この不変性は、特異点の位置と種類に対する情報を留数として圧縮することにより実現される。

4.3 定理の適用条件

適用には、曲線 \(C\) が特異点を含まないこと、対象関数が領域内で解析的であること(ただし特異点は有限個に限ること)、および積分が通常の意味で収束することが必要になる。特異点が無限個ある場合や、特異点が曲線上に存在する場合は、この形の公式がそのまま使えないため注意が要る。

4.4 計算例

例として、単純極だけを含む関数 \[ f(z)=\frac{1}{z(z-a)} \] を考える。閉曲線が \(0\) と \(a\) をそれぞれ内部に含むように選べば、積分は \[ \oint_C \frac{1}{z(z-a)}dz = 2\pi i\left(\operatorname{Res}\left(\frac{1}{z(z-a)},0\right)+\operatorname{Res}\left(\frac{1}{z(z-a)},a\right)\right) \] で与えられる。各留数は単純極なので極の打ち消し極限で計算でき、結果は \(2\pi i\) へ特異点ごとの寄与が合算される形で得られる。閉曲線の内部に含める点の選び方により、和の範囲が変わることが計算上のポイントになる。

5 留数の応用

5.1 実積分の計算

留数は複素積分に還元することで、実変数の積分を計算する手段として使われる。代表的には、実軸上の積分を複素平面上の閉曲線積分へ拡張し、無限遠での寄与が消える条件を確認したうえで留数和を計算する方法が挙げられる。結果として、トリッキーな実積分が特異点の局所計算に置き換えられることが多い。

5.2 級数の評価

級数評価でも留数が用いられる。特異点近傍のローラン展開や生成関数の性質を利用し、係数抽出を留数として表現すると、複雑な級数の和が閉形式に結びつく。特にテイラー係数を \[ a_n=\operatorname{Res}\left(\frac{f(z)}{(z-z_0)^{n+1}},z_0\right) \] のように書ける場合、係数計算から級数評価が可能になる。

5.3 解析接続との関係

留数は解析接続の構成に間接的に関わることがある。ある領域で定義された関数を、積分表示や特異点分布を通じて別の領域へ延長する際、積分路を動かした結果生じる変化が留数の和として表されるためである。これにより、延長後の関数の性質が特異点から追跡できる。

5.4 物理学・工学への応用

物理や工学では、応答関数や伝達関数の複素表現に現れる極や分岐などの解析が重要になる。留数は、それらの極に対応する寄与(モードの成分や減衰の効果)を計算する際に使われることがある。例えば時間領域への変換やスペクトル積分の評価では、複素平面での閉曲線積分を通じて留数和を求める手続きが広く利用される。

6 関連する概念

6.1 極

極は、複素関数がある点で無限大に発散するタイプの孤立特異点を指す。次数は、ローラン級数で負べきが始まる最小の指数と対応し、次数 \(m\) では \((z-z_0)^{-m}\) から始まる形の主要部分が現れる。留数はそのうち \((z-z_0)^{-1}\) の係数として特に重要になる。

6.2 孤立特異点

孤立特異点は、ある点の近傍では他の特異点が存在しないという性質をもつ。留数定理では主にこのタイプの特異点が有限個である状況が扱われる。孤立性があることで、曲線を小さく変形しても特異点の寄与が局所的に追跡でき、積分を留数へ還元できる。

6.3 ローラン級数

ローラン級数は、正則な部分と負べきの部分を同時に含む級数であり、特異点近傍の情報を体系的に表す。留数はその負べき部分のうち \((z-z_0)^{-1}\) の係数であり、局所展開と積分公式の橋渡し役を担う。

6.4 正則関数

正則関数は複素微分可能性が領域全体で成り立ち、解析的な性質をもつ関数である。正則性は負べき項の不在、したがって留数ゼロと結びつく。また正則関数はローラン級数に対してテイラー級数へ縮退するため、留数が特異性の検出器として機能する。