1 基本概念

部分積分は、二つの関数の積の積分を、別の積分へと組み替えるための基本的な手法である。微分と積分の関係を逆向きに利用することで、直接は扱いにくい式を、より計算しやすい形へ変換できる。特に、片方は微分で単純になり、もう片方は積分して扱いやすい場合に有効である。

1.1 部分積分の定義

部分積分とは、関数 \(u\) と \(v\) に対して、積 \(uv\) の積分を変形する方法をいう。一般には、\(u\) を微分し、\(dv\) を積分して \(v\) を得たうえで、元の積分を別の積分に書き換える。

不定積分では、次の形で表される。 \[ \int u\,dv = uv - \int v\,du \] この式は、積の一部を微分し、残りを積分するという考え方を明確に示している。

1.2 積の微分公式との関係

部分積分は、積の微分公式 \[ (uv)' = u'v + uv' \] を積分し直したものである。微分の式を逆向きに読むことで、積分の等式が得られる。つまり、微分法の基本法則から自然に導かれる変形であり、独立した技巧というより、解析学の構造に根ざした公式である。

1.3 記号と基本的な書き方

計算では、積分被積分関数を \(u\) と \(dv\) に分ける書き方がよく用いられる。ここで \(du\) は \(u\) の微分、\(v\) は \(dv\) の積分結果を表す。定積分では、 \[ \int_a^b u\,dv = \bigl[uv\bigr]_a^b - \int_a^b v\,du \] と書かれ、両端の値をまとめた項が現れる。記号上は簡潔だが、どの部分を \(u\) とみなすかが計算の成否を左右する。

2 導出

2.1 積の微分公式からの導出

最も基本的な導出は、積の微分公式をそのまま積分する方法である。 \[ (uv)' = u'v + uv' \] これを積分すると、 \[ uv = \int u'v\,dx + \int uv'\,dx \] となる。これを整理すれば、 \[ \int uv'\,dx = uv - \int u'v\,dx \] が得られる。これが部分積分の原型である。

2.2 定積分の場合の導出

定積分では、両辺を区間 \([a,b]\) で積分し、基本定理を用いる。 \[ \int_a^b (uv)' \,dx = [uv]_a^b \] 一方で、積の微分公式を展開して積分すれば、 \[ [uv]_a^b = \int_a^b u'v\,dx + \int_a^b uv'\,dx \] となる。したがって、 \[ \int_a^b uv'\,dx = [uv]_a^b - \int_a^b u'v\,dx \] が成立する。定積分では境界の寄与が明示される点が重要である。

2.3 無限区間への拡張

無限区間では、積分の端点が有限値ではないため、極限を介して扱う。たとえば \([a,\infty)\) 上での積分では、 \[ \int_a^\infty u\,dv = \lim_{R\to\infty}\left([uv]_a^R - \int_a^R v\,du\right) \] と表される。ここでは、境界項 \(uv\) が無限遠で収束するかどうかが鍵となる。したがって、適用には関数の減衰有界性を確認する必要がある。

3 計算方法

3.1 変数の選び方

部分積分の要点は、どちらを微分し、どちらを積分するかの選択にある。経験的には、微分すると単純になるものを \(u\) に、積分しやすいものを \(dv\) に取ると計算が進みやすい。選び方を誤ると、かえって式が複雑になることがある。

3.1.1 微分すると簡単になる関数

多項式は微分を繰り返すと次数が下がり、最終的に定数や零になるため、部分積分と相性がよい。対数関数逆三角関数も、微分によって比較的扱いやすい有理式へ変わることが多い。この性質を利用すると、積分全体を整理しやすい。

3.1.2 積分しやすい関数

指数関数三角関数は、積分しても形が大きく変わらず、元の関数のまま扱える場合が多い。たとえば \(e^x\)、\(\sin x\)、\(\cos x\) は、積分後も計算を継続しやすい。このため、微分で簡単になる因子と組み合わせると効果が高い。

3.2 置き方の手順

実際の手順は、次のように整理できる。まず、被積分関数を \(u\) と \(dv\) に分ける。次に \(du\) を求め、\(dv\) を積分して \(v\) を得る。その後、公式 \[ \int u\,dv = uv - \int v\,du \] に代入し、残った積分を計算する。

この過程では、式変形の見通しを立てることが重要である。目的は単に公式を当てはめることではなく、元の式より処理しやすい形へ移すことである。

3.3 繰り返し部分積分

同種の操作を繰り返すと、元の積分に戻る場合や、有限回で終了する場合がある。特に多項式と指数関数、あるいは多項式と三角関数の組では、次数が下がるため再帰的に整理しやすい。場合によっては、同じ積分が両辺に現れ、代数的に解いて答えを得ることもある。

4 応用

4.1 多項式と指数関数の積分

\(\int x^n e^x\,dx\) のような積分では、多項式を微分側に置くと有効である。多項式は次数が減少し、指数関数は形を保つため、繰り返し部分積分で簡潔な式に到達しやすい。結果として、元の積分を有限回の操作で求められる。

4.2 多項式と三角関数の積分

\(\int x^n \sin x\,dx\) や \(\int x^n \cos x\,dx\) でも、同様の方針が使える。三角関数は積分・微分のいずれでも周期的な関係を保つので、計算を続けると再帰的な構造が現れる。これにより、複数回の部分積分を経て答えが得られる。

4.3 対数関数を含む積分

\(\int \log x\,dx\) のような式は、直接処理しにくいが、部分積分により扱いやすくなる。\(u=\log x\)、\(dv=dx\) とすると、対数部分は微分で単純化し、残りは初等的に積分できる。対数が掛かる形の積分では、この考え方が特に有用である。

4.4 逆三角関数を含む積分

\(\int \arctan x\,dx\) や \(\int \arcsin x\,dx\) のような積分でも、部分積分が役立つ。逆三角関数は微分すると有理式になるため、式全体を整理しやすい。したがって、基本形に帰着させるための標準的手段として広く用いられる。

5 発展的な話題

5.1 定積分での境界項

定積分では、部分積分の結果に境界項 \([uv]_a^b\) が現れる。これは、区間の端での値が積分結果に直接影響することを意味する。境界で関数が消える場合には式が簡単になり、逆に発散する場合には注意が必要となる。

5.2 広義積分への適用条件

広義積分では、無限遠や特異点近傍での極限が存在するかどうかを確認しなければならない。部分積分によって収束性が改善する場合もあれば、境界項の処理が難しくなる場合もある。したがって、形式的な計算だけでなく、極限操作の正当性が重要である。

5.3 微分方程式への応用

部分積分は、微分方程式の解法にも現れる。特に、弱形式や変分法では、微分を別の関数へ移す操作として使われる。これにより、境界条件を明示しながら式を整え、解の性質を調べやすくなる。

5.4 解析学における利用

解析学では、部分積分は証明技法としても重要である。収束の評価、関数列の取り扱い、フーリエ解析における減衰の証明など、さまざまな場面で用いられる。単なる計算公式を超えて、関数の滑らかさと境界挙動を結びつける役割を持つ。

6 関連する手法

6.1 部分分数分解との比較

部分分数分解は、有理式を簡単な分数の和に分けて積分しやすくする方法である。これに対し、部分積分は積の形を変換する。前者は代数的な分解が中心で、後者は微分と積分の交換が中心という違いがある。

6.2 置換積分との使い分け

置換積分は、変数変換によって積分の形を整える方法である。部分積分は、積の一部を微分し直す点で異なる。実際の計算では、まず置換で簡略化し、その後に部分積分を使うことも多い。両者は対立する手法ではなく、相補的に働く。

6.3 再帰関係の導出

部分積分は、積分の族に対する再帰関係を導くのに適している。たとえば、指数関数や三角関数を含む積分では、次数や係数を1段階ずつ下げる関係式が得られる。これにより、一般の \(n\) に対する公式を整理しやすくなる。

7 代表的な例題

7.1 基本例

基本例として \(\int x e^x\,dx\) が挙げられる。ここでは \(u=x\)、\(dv=e^x dx\) とすると、\(du=dx\)、\(v=e^x\) となる。公式を用いれば、 \[ \int x e^x\,dx = xe^x - \int e^x\,dx = xe^x - e^x + C \] が得られる。最も標準的な適用例である。

7.2 応用例

\(\int x\cos x\,dx\) や \(\int \log x\,dx\) などは、部分積分の典型的な応用である。前者では多項式と三角関数の組み合わせが現れ、後者では対数を微分側に置くことで計算が進む。いずれも、適切な分割によって初等的な形へ帰着できる。

7.3 計算を簡略化する工夫

実際の計算では、すぐに公式へ代入するだけでなく、途中で式の整理を工夫するとよい。たとえば、定数倍を先に外に出す、同じ形の積分が再出現するように組み替える、あるいは対称性を利用して式をまとめると、処理が短くなる。こうした工夫により、部分積分はより実用的な道具となる。