1 概要
1.1 定義
蕁麻疹は、皮膚に境界が比較的明瞭な膨らみが現れ、しばしば強いかゆみを伴う疾患である。病変は一過性で、同じ部位の発疹は多くの場合数時間から24時間以内に消える。見た目が地図状に広がることもあり、症状の出現と消退を繰り返す点が特徴である。
1.2 発生の特徴
発症のしかたは多様で、食物や薬剤などの明確な誘因がみつかる場合もあれば、原因が特定できない例も多い。急に始まることがある一方、長期間にわたり再発を重ねることもある。体質、外的刺激、感染、精神的負荷などが複合して関与することも少なくない。
1.3 分類
蕁麻疹は、持続期間によって急性と慢性に分けられるほか、寒さ、日光、圧迫、熱など特定の刺激で誘発される型もある。さらに、免疫反応が関わるものと、刺激や生活要因が前景に出るものがあり、臨床では発症状況に応じて整理される。
2 症状
2.1 膨疹
典型的には、皮膚が盛り上がって淡紅色から白っぽく見える膨疹が生じる。大きさは数ミリから数センチ以上まで幅があり、複数が融合して広い斑状になることもある。個々の病変は移動するように現れ、跡を残さず消退するのが一般的である。
2.2 かゆみ
かゆみは主要な症状で、強さは軽度から非常に強いものまでさまざまである。掻くことで赤みが増し、皮膚を傷つけるとさらに不快感が強まることがある。夜間に目立つ場合は、睡眠の妨げとなることもある。
2.3 併発症状
症状は皮膚だけにとどまらず、より深い組織のむくみや全身の不調を伴う場合がある。これらの所見は重症度の判断に関わるため、注意深く観察される。
2.3.1 血管性浮腫
血管性浮腫は、皮膚や粘膜の深い部分が腫れる状態で、まぶた、唇、舌、手足などに起こりやすい。膨疹よりも深く、痛みや張り感を訴えることがある。喉頭に及ぶと呼吸の障害につながるため、重要な合併所見である。
2.3.2 全身症状
重い場合には、息苦しさ、ぜんめい、腹痛、吐き気、めまいなどがみられる。これらは全身反応の一部であり、急速に進行する例では救急対応が必要になる。皮膚症状が軽くても、全身症状が前面に出ることがある。
3 原因
3.1 アレルギー性要因
免疫反応を介して起こる蕁麻疹では、特定の物質に反応して症状が誘発される。比較的短時間で出現することが多く、再曝露で同様の反応を示しやすい。
3.1.1 食物
卵、乳製品、魚介類、ナッツ類などが原因になることがある。摂取後まもなく皮疹が出る例があり、腹部症状や口腔内の違和感を伴うこともある。ただし、食後に起こる症状すべてが食物アレルギーとは限らない。
3.1.2 薬剤
抗菌薬、解熱鎮痛薬、造影剤などが誘因となることがある。服薬後に発疹が現れた場合は、薬歴の確認が重要である。体質や併用薬によって反応の出方が変わるため、自己判断での再使用は避けられる。
3.1.3 昆虫刺傷
蜂などの刺傷により、局所の腫れに加えて全身性の蕁麻疹が生じることがある。症状は刺された直後から比較的早く出現する場合が多い。体質によっては重篤な反応へ進展するため、既往の把握が大切である。
3.2 非アレルギー性要因
アレルギー反応以外でも、さまざまな刺激や生体反応によって蕁麻疹は起こる。感染症や物理的条件、心理的負荷が背景にあることもあり、誘因が複合する例も少なくない。
3.2.1 感染
ウイルス感染や上気道炎、消化器感染などに続いて出ることがある。小児では感染に関連する急性発症が目立つ。病原体そのものだけでなく、感染に伴う免疫応答が症状に関与すると考えられている。
3.2.2 物理的刺激
寒冷、温熱、日光、圧迫、摩擦、運動、発汗などが引き金となる。刺激が加わった部位に限局して発疹が出ることが多く、再現性が高い。環境条件や衣服の圧迫が症状に影響する場合もある。
3.2.3 精神的要因
強いストレス、緊張、睡眠不足などが悪化因子となることがある。これらは単独で原因と断定しにくいが、症状の増減と関係する例は少なくない。慢性例では生活背景の評価が役立つ。
3.3 原因不明の蕁麻疹
検査や問診を行っても明確な誘因が特定できない例は多い。この場合、症状の出方や持続期間を手がかりに経過観察し、必要に応じて治療方針を調整する。原因不明であっても、症状自体への対応は可能である。
4 診断
4.1 問診
診断では、いつ始まったか、どのような場所に出るか、どのくらい続くかを詳しく確認する。食事、服薬、運動、寒冷曝露、感染の有無など、直前の状況も重要である。再発の有無や家族歴、既往症も参考になる。
4.2 身体診察
皮疹の形、広がり、持続時間、浮腫の有無を観察する。掻破痕や色素沈着があれば、別の皮膚疾患との区別に役立つ。呼吸状態、血圧、粘膜の腫れなども確認される。
4.3 検査
典型例では、病歴と診察所見から診断できることが多い。必要に応じて追加検査を行い、誘因や重症度を評価する。
4.3.1 血液検査
炎症所見、好酸球、肝機能、甲状腺関連項目などをみることがある。感染や基礎疾患の手がかりを得る目的で実施される場合もあるが、すべての症例で広範な検査が必要というわけではない。
4.3.2 誘発試験
寒冷や圧迫など、疑われる刺激を用いて再現性を確認することがある。安全性に配慮しながら行われ、陽性なら誘発性蕁麻疹の診断補助となる。ただし、重症反応の危険がある場合は慎重な判断が求められる。
4.4 鑑別診断
蕁麻疹に似た皮疹として、湿疹、薬疹、虫刺症、紅斑性疾患などが挙げられる。病変が24時間以上同じ場所に残る場合や、痛みや紫斑を伴う場合は別の疾患を考える。診断の際には、経過の速さが重要な手がかりになる。
5 分類
5.1 急性蕁麻疹
おおむね6週間以内に終息するものを指す。感染や食物、薬剤が関係することが多く、短期間で改善する例が少なくない。再発がなければ、経過は比較的良好である。
5.2 慢性蕁麻疹
6週間以上、症状が断続的または連日続く状態である。原因が特定できないことも多く、日常生活への影響が大きい。増悪と軽快を繰り返し、治療は症状抑制と誘因管理を中心に行われる。
5.3 誘発性蕁麻疹
特定の刺激で繰り返し生じる型で、刺激の種類によっていくつかに分かれる。発症部位が比較的予測しやすい点が特徴である。
5.3.1 寒冷蕁麻疹
冷気、冷水、冷たい物体への接触で起こる。季節や生活環境によって悪化しやすく、広い範囲が冷やされると全身反応を招くことがある。
5.3.2 日光蕁麻疹
日光曝露後に短時間で膨疹が現れる。露出部に起こりやすく、外出や屋外活動が制限されることがある。比較的まれだが、再現性が高い。
5.3.3 圧迫蕁麻疹
ベルト、靴、座位の圧力、長時間の荷重などで生じる。刺激後すぐではなく、しばらくしてから腫れや痛みが出ることがある。遅れて出現するため、原因の気づきにくい型である。
5.3.4 温熱蕁麻疹
熱い物への接触や局所の加温によって起こる。入浴、調理、温かい器具の使用が誘因になることがある。症状は接触部位に限局することが多い。
6 治療
6.1 原因の回避
可能なら誘因を避けることが基本となる。食物や薬剤が疑われる場合は、記録をもとに再発を防ぐ。物理的刺激が関係するなら、衣服、温度、作業環境の調整が有効である。
6.2 薬物療法
症状の抑制には内服薬が中心となる。病型や重症度に応じて選択し、反応が不十分な場合は調整される。
6.2.1 抗ヒスタミン薬
第一選択として用いられることが多い。かゆみや膨疹を軽減し、再発の頻度を下げる目的で継続使用されることもある。眠気の出にくさや服用回数などを考慮して選ばれる。
6.2.2 ステロイド薬
短期間の強い炎症抑制が必要なときに用いられることがある。長期連用は避けられ、通常は限定的に使われる。自己判断での継続使用は望ましくない。
6.2.3 免疫調整療法
難治例では、免疫反応を調整する治療が検討される。慢性例で他の方法で十分な改善が得られないときに選択されることがある。専門医の管理下で行われるのが一般的である。
6.3 重症例への対応
呼吸器症状や全身反応を伴う場合は、皮膚症状より優先して全身管理が必要になる。迅速な評価と処置が予後を左右する。
6.3.1 アナフィラキシーへの対応
呼吸困難、血圧低下、意識障害を伴う場合は、アナフィラキシーとして対応する。救急要請が必要で、緊急薬剤の投与や気道確保が検討される。既往がある人は、再発時の行動計画を持つことが望ましい。
6.3.2 緊急受診の目安
唇や舌の腫れ、声のかすれ、息苦しさ、めまい、強い腹痛があるときは早急な受診が必要である。皮疹が急速に広がる場合や、意識がぼんやりする場合も警戒すべきである。
7 予後
7.1 経過
急性例は数日から数週間で軽快することが多い。慢性例では長引くこともあるが、時間とともに症状が弱まる例もある。経過は病型や誘因の有無によって差が大きい。
7.2 再発
再発は珍しくなく、誘因が残っていると繰り返しやすい。生活環境や服薬状況が影響し、同じ人でも時期によって症状の程度が変わる。記録をつけると再発パターンの把握に役立つ。
7.3 生活への影響
強いかゆみや外見上の変化により、睡眠、仕事、学業、対人場面に支障が出ることがある。慢性化すると不安や疲労感も増えやすい。適切な治療により、日常生活の質は改善しやすい。
8 予防
8.1 誘因の把握
症状が出た時刻、食事内容、服薬、運動、気温、接触物を記録すると、原因の推定に役立つ。繰り返す場合は、受診時に情報を整理して伝えるとよい。発症条件の見える化が再発予防の第一歩となる。
8.2 生活上の工夫
過度な摩擦や急激な温度変化を避け、肌への負担を減らすことが有用である。睡眠不足や強い疲労をため込まないことも大切で、衣類や入浴方法の見直しが症状緩和につながる場合がある。
8.3 再発予防
原因がわかっている場合は回避を徹底し、薬剤や食物に注意する。慢性例では、症状が落ち着いても治療を自己中断せず、医療機関の指示に従うことが重要である。重症反応の既往がある人は、緊急時の対応手順を確認しておく。
9 関連項目
アナフィラキシー、血管性浮腫、アレルギー、薬疹、湿疹、接触皮膚炎、皮膚科