1 概要
結膜炎は、まぶたの内側と白目の表面を覆う結膜に炎症が生じる状態の総称である。原因は一つに限られず、感染、アレルギー、刺激物への接触、外傷などによって起こる。症状の出方や経過は背景により異なり、軽快しやすいものもあれば、適切な治療や経過観察を要するものもある。
1.1 結膜の役割
結膜は薄い粘膜で、眼球の表面を保護し、まぶたの動きを滑らかにする役割を担う。また、涙の広がりや異物の排除にも関与するため、この部位に炎症が起こると、赤みや不快感が目立ちやすい。
1.2 結膜炎の定義
結膜炎とは、結膜に生じた炎症を指す病名であり、単独の疾患名というより症候群として扱われることが多い。赤み、分泌物、かゆみ、異物感などを伴うことが一般的で、片眼または両眼に現れる。
1.3 主な原因の分類
原因は大きく感染性と非感染性に分けられる。感染性には細菌、ウイルス、真菌などが含まれ、非感染性にはアレルギー、刺激物、物理的損傷などがある。臨床では、原因の見極めが治療方針を左右する。
2 症状
結膜炎の症状は多様で、軽い違和感だけのこともあれば、目立つ分泌物や強いかゆみを伴うこともある。原因の違いによって症状の組み合わせが変化するため、経過の観察が重要である。
2.1 代表的な症状
最もよくみられるのは充血、目やに、かゆみ、異物感、涙目である。これらは単独で現れることもあれば、複数が同時に出ることもある。
2.1.1 充血
結膜の血管が拡張し、白目が赤く見える。炎症の有無を示す代表的な所見であり、左右差や範囲も判断材料となる。
2.1.2 目やに
分泌物が増え、朝にまぶたが開けにくくなることがある。性状は水様、粘液性、膿性などさまざまで、原因の推定に役立つ。
2.1.3 かゆみ
アレルギー性で目立ちやすい症状で、こすりたくなる感覚を伴う。刺激によってさらに悪化しやすい。
2.1.4 異物感
砂が入ったような感覚や、まぶたの裏に何かが触れているような不快感を訴える。涙目やまばたきの増加を伴うことがある。
2.2 原因別の症状の違い
同じ結膜炎でも、原因によって症状の質が異なる。診療では、分泌物の性状、かゆみの強さ、発症の様式が手掛かりとなる。
2.2.1 細菌性の場合
膿性の目やにが多く、まぶたが付着しやすい。充血が比較的強く、片眼から始まって広がることがある。
2.2.2 ウイルス性の場合
水様性の分泌物が目立ち、感染力が高い種類では周囲へうつりやすい。のどの症状や軽い発熱を伴う場合もある。
2.2.3 アレルギー性の場合
両眼に起こりやすく、強いかゆみが特徴的である。分泌物は比較的さらっとしており、季節性または持続性の経過をとることがある。
3 原因
結膜炎の発症機序は多岐にわたる。原因を感染性と非感染性に整理すると、病像の理解と対応がしやすい。
3.1 感染性の原因
病原体が結膜に侵入し、局所で炎症を起こす。接触を介して広がるものもあり、衛生対策が重要である。
3.1.1 細菌
一般的な原因の一つで、常在菌の増殖や外部からの感染で生じる。小児から成人まで幅広くみられる。
3.1.2 ウイルス
アデノウイルスなどが代表的で、急性の流行性結膜炎の原因となることがある。発症後しばらくは分泌物や充血が続く。
3.1.3 真菌
比較的まれで、外傷や免疫状態の影響を背景に生じることがある。経過が長引く場合には他の病態との区別が必要になる。
3.2 非感染性の原因
病原体を介さずに起こるタイプで、環境や体質の影響が大きい。再発予防には誘因の把握が欠かせない。
3.2.1 アレルギー
花粉、ハウスダスト、動物の毛などに反応して炎症が起こる。体質により季節性または通年性にみられる。
3.2.2 刺激物
煙、化学物質、ほこり、プールの塩素などが原因となる。暴露の程度によって症状の強さが変わる。
3.2.3 外傷
異物、擦過、コンタクトレンズの不適切な使用などが誘因となる。局所の損傷により炎症が持続しやすい。
4 診断
診断では、症状の確認に加えて、感染性か非感染性かを見極めることが中心となる。重症化の兆候や角膜への影響の有無も重要である。
4.1 問診
発症時期、片眼か両眼か、周囲への感染の有無、アレルギー歴、使用中の薬剤やコンタクトレンズの有無を確認する。経過の速さも判断材料になる。
4.2 視診
眼の赤み、分泌物の量と性状、まぶたの腫れ、結膜の腫脹などを観察する。必要に応じて、角膜や眼瞼の状態もあわせて確認する。
4.3 検査
所見が典型的でない場合や重症例では、補助的な検査を行う。
4.3.1 目やにの検査
分泌物の性状を調べ、炎症の種類を推定する。とくに膿性か水様かは鑑別の手掛かりになる。
4.3.2 病原体の確認
培養や迅速検査などにより、原因微生物を調べることがある。治療薬の選択に役立つ。
4.3.3 アレルギーの評価
必要に応じて原因抗原の推定やアレルギー体質の確認を行う。再発予防の計画にもつながる。
5 治療
治療は原因に応じて異なる。多くは保存的対応で改善するが、感染性の種類や重症度によっては薬物療法が必要となる。
5.1 保存的対応
軽症例では、眼を安静に保ち、清潔を維持することが基本となる。刺激を減らすだけでも症状が和らぐことがある。
5.1.1 安静と清潔保持
目をこすらず、手指を清潔に保つ。分泌物がある場合は、やさしく拭き取る。
5.1.2 冷却や洗浄
かゆみや腫れが強い場合、冷やすことで不快感が軽減することがある。異物感があるときは洗浄が有用な場合もある。
5.2 薬物療法
原因に応じて点眼薬や軟膏を用いる。自己判断での使用は避け、適応に沿った選択が望ましい。
5.2.1 抗菌薬
細菌性が疑われる場合に用いられる。症状の改善と病原体の抑制を目的とする。
5.2.2 抗ウイルス薬
特定のウイルス感染で検討される。すべてのウイルス性結膜炎に有効というわけではない。
5.2.3 抗アレルギー薬
かゆみや涙目を抑えるために使用される。アレルギー性では再発予防にもつながる。
5.2.4 眼軟膏と点眼薬
症状や年齢、病型に応じて使い分ける。軟膏は持続性があり、点眼薬は使いやすさに利点がある。
5.3 重症例の対応
角膜障害や視機能への影響が疑われる場合は、より慎重な管理が必要である。
5.3.1 合併症への対処
角膜の障害、強い腫れ、慢性的な炎症などには追加の処置を行う。経過不良例では再評価が求められる。
5.3.2 眼科受診の必要性
強い痛み、視力変化、改善しない症状がある場合は眼科での診察が望ましい。専門的な評価により、他疾患との区別が可能になる。
6 予防
予防では、感染の伝播を断つことと、誘因を避けることが中心となる。日常生活での小さな工夫が再発や拡大の抑制に役立つ。
6.1 感染予防
接触による広がりを防ぐため、衛生習慣が重要である。
6.1.1 手洗い
眼に触れる前後の手洗いを徹底する。石けんと流水を用いた基本的な方法が有効である。
6.1.2 物品の共用回避
タオル、洗面用具、化粧品などの共有を避ける。家族内や集団生活での感染拡大を抑えやすい。
6.1.3 眼周囲の衛生管理
分泌物を適切に処理し、眼瞼や周囲の皮膚を清潔に保つ。清拭には使い回しをしないことが大切である。
6.2 アレルギー予防
原因物質への暴露を減らすことで、症状の発生や増悪を抑えられる。
6.2.1 原因物質の回避
花粉、ほこり、動物由来のアレルゲンを把握し、接触を減らす。個人の誘因を知ることが重要である。
6.2.2 環境整備
室内の清掃、換気、寝具の管理などを行い、刺激の少ない環境を整える。季節に応じた対策も有効である。
7 合併症
多くは軽快するが、原因や対応によっては合併症を生じることがある。早期の評価が重症化の回避につながる。
7.1 角膜への波及
炎症が角膜に及ぶと、痛みや視力低下を伴うことがある。これはより慎重な対応を要する。
7.2 慢性化
刺激や炎症が長引くと、症状が持続しやすくなる。生活上の負担も増えるため、原因の再検討が必要となる。
7.3 再発
アレルギーや生活環境に関連する場合、繰り返し起こりやすい。再発のたびに対策を見直すことが望ましい。
8 鑑別診断
似た症状を示す眼疾患は少なくないため、結膜炎と区別することが重要である。特に痛みや視力障害がある場合は注意を要する。
8.1 角膜炎
角膜に炎症が起こる病態で、痛みや羞明が強く出やすい。結膜炎より重い経過をとることがある。
8.2 麦粒腫
まぶたの一部に膿を伴う炎症が生じる。局所の腫れが目立ち、結膜の炎症とは位置が異なる。
8.3 ドライアイ
涙の量や質の異常により、乾燥感や異物感が生じる。充血を伴うこともあり、結膜炎と紛らわしい。
8.4 ぶどう膜炎
眼内の炎症で、痛み、充血、視力低下を伴うことがある。見た目の赤さだけでは区別できない場合がある。
9 受診の目安
軽い症状であっても、経過や随伴症状によっては医療機関の受診が必要となる。とくに重い所見がある場合は早めの対応が望ましい。
9.1 早期受診が望ましい症状
症状が強い、または日常生活に支障が出る場合は、早めに眼科や医療機関へ相談する。
9.1.1 強い痛み
単なる違和感を超える痛みは、別の眼疾患を示唆することがある。
9.1.2 視力低下
見え方の変化は重要な警告所見である。角膜や眼内の病変を考慮する必要がある。
9.1.3 光に対する過敏
まぶしさが強い場合は、炎症が深い部位に及んでいる可能性がある。
9.2 緊急対応が必要な場合
急速な悪化、強い腫れ、視力の著しい変化、外傷後の症状などは緊急性が高い。自己判断で様子を見続けず、速やかな受診が勧められる。