1 定義
1.1 区間上の凹関数
実数値関数 \(f\) が区間 \(I\) 上の凹関数(concave function)であるとは、任意の \(x,y\in I\) と任意の \(t\in[0,1]\) に対して \[ f\bigl(tx+(1-t)y\bigr)\ge tf(x)+(1-t)f(y) \] が成り立つことをいう。右辺は点 \(x\) と \(y\) の関数値の重み付き平均であり、左辺はその内分点での値である。図形的には、任意の2点を結ぶ線分がグラフの下側に位置する(線分より上にグラフがある)という幾何学的性質を表す。
1.2 厳密な凹関数
同じ状況で、上の不等号がすべての \(t\in(0,1)\) について厳密に成り立ち、かつ(通常の用法では)\(x\neq y\) のときに必ず \[ f\bigl(tx+(1-t)y\bigr)> tf(x)+(1-t)f(y) \] となるとき、\(f\) は厳密な凹関数(strictly concave function)と呼ばれる。厳密性により、平均点での値が線分の内側に明確に持ち上がるため、最適化問題で解の一意性を導きやすい。
1.3 凸関数との関係
1.3.1 上に凸と下に凸
「凹」「凸」は図形の上下の向きと対応して語られることが多い。凹関数はグラフが線分より上に来るため「上に凸(上に張り出す)」の直観に結びつくことがある。一方、凸関数は線分より下に来るため「下に凸」の直観と対応する。ただし「上に凸」「下に凸」という言い方は文脈により解釈が揺れる場合があるため、数学的には上の定義式の不等号の向きで判別するのが確実である。
1.3.2 表記や流儀の違い
文献によっては、凹関数と凸関数の定義が符号付きで入れ替わって述べられることがある。たとえば \(f\) が凹であることを \(-f\) が凸であるという同値性に基づいて議論する流儀がある。さらに「concave」の翻訳を「下に凸」「上に凸」などとして説明する場合もあるため、定義式の不等号を必ず確認する必要がある。
2 判定条件
2.1 傾きの単調性
\(f\) が区間 \(I\) 上で微分可能であるとする。凹関数であることは、微分係数(傾き)が位置に応じて単調に減少する性質と関係する。具体的には、凹関数の下では \(x\) が増えるにつれて \(f'(x)\) が下がる方向に働きやすい。これにより、曲線が左側で急勾配、右側で緩勾配へ移るという直観が数学的に支えられる。逆に、適切な条件下で \(f'\) が単調減少なら凹性が従う。
2.2 接線による判定
凹関数は、任意の点における接線が関数を下から支持する(関数の上に乗る)という特徴付けで述べられることがある。点 \(x_0\in I\) で微分可能な場合、凹性は \[ f(x)\le f(x_0)+f'(x_0)(x-x_0)\quad(\forall x\in I) \] に同値であることが多い。ここで右辺は \(x_0\) における接線の式であり、凹関数のグラフはそれを下回らない、という関係を意味する。この支持直線の形は、後述の最適化や双対性の議論でも頻出する。
2.3 二階導関数による判定
2.3.1 二階導関数が負の場合
\(f\) が区間 \(I\) 上で二回微分可能であり、任意の \(x\in I\) で \[ f''(x)\le 0 \] が成り立つなら、\(f\) は凹関数である。二階導関数は曲率の符号を反映するため、\(f''\) が負という条件は「曲線が上側に張り出す」方向の曲がり方を保証する。通常の枠組みでは、厳密凹性は \(f''(x)<0\) が区間全体で成り立つ、あるいは積極的な仮定の下で導かれる。
2.3.2 二階導関数が存在しない場合
二階導関数が存在しない場合でも凹性を判定する方法はある。たとえば、接線による判定や、増加関数の微分可能性を用いる一般化(上随伴・下随伴の概念に近い考え方)などが用いられる。さらに、凹性は定義式の不等号としては意味を持つため、微分が成立しない区間でも(連続性などの補助的条件のもとで)定義に立ち返るのが基本になる。
2.4 離散的な判定
関数が格子点や有限集合上で定義されている場合にも、凹性の離散版が考えられる。典型的には、隣接点や複数点の間での差分(一次差・二次差)に基づき、離散的に「傾きが単調減少」や「二次差が非正」になることを条件として設定する。これにより最適化や推定のアルゴリズムで扱いやすい形に落とし込めるが、連続の場合と完全に同一ではないため、定義の対応関係を明示するのが重要である。
3 基本性質
3.1 線形結合と保存性
3.1.1 正の定数倍
凹関数 \(f\) に対し、正の定数 \(a>0\) を掛けた \(af\) も凹関数である。重み付き平均に対する不等号は定数倍で向きが保たれるためである。直観的には、グラフを縦方向に拡大しても「線分より上にある」という幾何学的性質は変わらない。
3.1.2 凹関数の和
凹関数の和も凹関数となる。より具体的には、区間 \(I\) 上で凹な \(f\) と \(g\) に対して \(f+g\) は凹である。これは、それぞれの凹性が与える不等式を足し合わせても不等号の向きが維持されることに由来する。したがって、複数の寄与を合算するモデルでは、凹性を保ったまま合成できる。
3.2 最大値と最小値
3.2.1 区間端点での性質
凹関数の一般的な特徴として、閉区間上での最大値は端点で達成されることが多い。実際には、連続性などの条件を付すことで「最大値は端点あるいは場合により内部」へと整理される。反対に、最小値は内点で現れる可能性があるが、凹性だけでは単純な一般則に落としにくい。
3.2.2 局所最大と大域最大
厳密な凹性を含む条件のもとでは、局所最大が大域最大に一致する性質が得られる。凹曲線は上方向に湾曲するため、局所的に上に膨らむ点が存在すると、その周囲では値が下がる方向に働き、全体でも最大になりやすい。最適化ではこの性質が、局所探索の正当化や解の検証に結びつく。
3.3 接線と支持直線
凹関数では、ある点での線形近似(接線や一般化された支持直線)が関数を下から支える。微分可能であれば接線がその役割を果たし、非微分の場合でも支持直線(サブグラディエントに対応する線)が存在しうる。支持直線の思想は「関数を上界で評価する」方向の見積もりに有用で、最適化・不等式・経済学の効用や費用の評価で活躍する。
3.4 ジェンセン型の不等式
3.4.1 重み付き平均
凹関数 \(f\) と重み \(t_i\ge 0\), \(\sum_i t_i=1\) を考えると、ジェンセン型の不等式として \[ f\Bigl(\sum_i t_i x_i\Bigr)\ge \sum_i t_i f(x_i) \] が成り立つ。これは定義式を有限個に一般化した形であり、平均による評価が凹性により保証される。期待値との対応から、確率論の枠組みでも自然に現れる。
3.4.2 一般化された形
重みが連続分布に置き換わり、積分を用いる形では \[ f\Bigl(\int x\,d\mu(x)\Bigr)\ge \int f(x)\,d\mu(x) \] と表される(測度条件や積分可能性が必要)。また、単調変換や合成の扱いにより、さまざまな形の上界・下界見積もりが導かれる。凹性は「集約すると値が上がりやすい」という構造を持つため、推定や設計の際の保守的評価に利用できる。
4 代表例と応用
4.1 代表的な凹関数
4.1.1 対数関数
対数関数 \(f(x)=\log x\)(定義域 \(x>0\))は凹である。曲線は増加しつつ増加率が次第に小さくなり、傾きの単調減少が観察される。二階導関数は負になり、接線が関数を下から支持する形になりやすい。情報量や比率の扱いで頻繁に登場し、ジェンセン型不等式と結びつくことで平均の評価が容易になる。
4.1.2 平方根関数
平方根 \(f(x)=\sqrt{x}\)(\(x\ge 0\))も凹関数の代表例である。端点近くでは変化が大きく、遠ざかるほど緩やかになるため、二次の意味での湾曲が上向きになる。定義域の制約に注意が必要で、負の値を許さないためモデリングではその扱いが重要となる。
4.1.3 べき関数
べき関数 \(f(x)=x^p\) は、指数 \(p\) によって凹凸が変わる。一般に \(p\in(0,1)\) では \(x\ge 0\) 上で凹になる。これは成長が減速するためであり、指数が1を超えると逆方向の曲がり方に転じる。パラメータに応じて形状が変化するため、応用分野では「減少逓減」などの性質を持ち込む際の調整ノブとして利用される。
4.2 反例と注意点
4.2.1 定義域の影響
凹性は定義域に強く依存する。たとえばある式が定義域の一部では凹でも、別の部分では不等号が崩れる場合がある。特に対数やべき乗は、実数領域での定義条件が不等式の成立領域を限定するため、まず「どこで議論するか」を固定する必要がある。
4.2.2 端点での扱い
区間の端点を含むかどうかで性質の言い方が変わることがある。端点を含む閉区間では連続性があると最大・最小の議論が整理される一方、開区間では値が極限として現れる形になり注意が必要になる。また、接線による判定は内部点での微分可能性を前提とすることが多く、端点近傍では別の評価法を併用するのが一般的である。
4.3 応用分野
4.3.1 最適化
凹関数は最適化で重要な役割を担う。特に、最大化問題において凹性は大域最適の性質を与えやすい。局所最大が大域最大になる傾向や、双対変数との関係(凸最適化理論との整合)により、解法の設計や収束解析が行いやすくなる。制約付き問題でも、目的関数や制約集合が適切な凹・凸の組合せになっていると、解析が体系化される。
4.3.2 不等式
ジェンセン型不等式を通じて、多様な上界・下界が構成できる。凹関数の性質は「平均を関数に入れると、平均した関数値より大きくなる」ことを保証するため、期待値や平均量を含む不等式で強力である。特定の関数形を凹として見抜けると、計算量が減り、論証が短くなることがある。
4.3.3 経済学
経済学では、効用やリスク評価、コスト関数などに凹性が現れることがある。凹性は「限界的な増加が逓減する」ことを数学的に表現し、意思決定主体の好みの特徴を反映する。特定のモデルは政治や領土などの論争と無関係な文脈で用いられ、需要・消費・投資の設計において、最適化と不等式の両方の道具として機能する。