ロバート・M・ヤング賞は、科学技術の社会的研究(STS)分野において、博士号取得後間もない研究者の優れた業績を顕彰する国際的な学術賞である。この賞は、科学と社会の相互作用に関する革新的な研究を評価し、若手研究者のキャリア発展を促進することを目的としている。毎年または隔年で開催される国際学会において授与され、受賞者には研究費や賞金が提供される。
1.1 名称の由来
賞の名称は、イギリスの科学社会学者ロバート・M・ヤング(1935–2019)に由来する。ヤングは科学社会学や科学技術史の分野で先駆的な研究を行い、科学知識の社会的構成や科学と政治の関係を探求した。彼の業績を記念し、その学問的遺産を継承する若手研究者を称えるため、この賞が設立された。
1.2 設立の背景と目的
1990年代以降、STS分野は急速に拡大し、多くの若手研究者が参入するようになった。しかし、博士号取得後の初期キャリアを支援するための顕彰制度は限られていた。そこで、国際的なSTS学会が中心となり、ヤングの名を冠した賞を創設することで、質の高い研究を促進し、次世代のリーダーを育成する基盤を整えた。主たる目的は、科学技術と社会の関係に関する深い洞察を評価し、若手研究者の国際的なネットワーク構築を支援することである。
2.1 対象となる研究者の条件
応募資格は、博士号取得後5年以内の研究者であること。国籍や所属機関は問わないが、STS分野に関連する研究を行っていることが条件となる。博士号取得前に発表された研究も、取得後5年以内の業績として認められる場合がある。また、共同研究の場合は筆頭著者または責任著者としての貢献が重視される。
2.2 選考プロセス
選考は、STS分野の専門家からなる選考委員会によって行われる。応募者は、主要な研究業績(論文、著書、または重要なプロジェクト)を1点提出し、それに対する自己評価や今後の研究計画を記した文書を添える。委員会は書類審査を経て最終候補者を選び、必要に応じて面接や追加資料の提出を求める。最終受賞者は、国際学会の総会において発表される。
2.3 評価の主要基準
評価の主要基準は、研究の独創性、方法論の厳密性、STS分野への貢献の大きさである。具体的には、科学技術の社会的・歴史的・哲学的側面に対する新たな視点の提示、実証データの質と分析の深さ、既存の理論枠組みへの挑戦や拡張などが重視される。また、学際的なアプローチや社会的インパクトも加点要素となる。
3.1 初回授賞年
ロバート・M・ヤング賞の初回授賞は2005年である。この年、国際科学技術社会学会(4S)の年次大会において、最初の受賞者が発表された。初期の受賞者は、科学技術史や科学社会学の領域で注目すべき業績を挙げた若手研究者が選ばれた。
3.2 過去の主な受賞者
3.2.1 2010年代の受賞者
2010年代には、気候変動研究や遺伝子工学の倫理、科学政策分析など、現代的なテーマに取り組む研究者が多く受賞した。例えば、2012年には環境ガバナンスと科学知識の共進化を研究したAが、2015年にはバイオテクノロジーの社会的受容性を調査したBが、2018年には科学コミュニケーションと市民参加をテーマにしたCが選ばれている。
3.2.2 2020年代の受賞者
2020年代に入ると、デジタル技術と社会、人工知能の倫理、ポストコロニアル科学技術研究などの分野での受賞が目立つ。2020年にはデータ倫理と監視社会を研究したD、2023年には科学とフェミニズム理論の接点を探求したEが受賞した。これらの受賞者は、STS分野の多様化と国際的な広がりを象徴している。
4.1 若手研究者への支援効果
本賞は、博士号取得後の不安定な時期にある若手研究者に、経済的支援とともに学術的な認知を提供する。受賞歴は、就職や研究費獲得の際に有利に働くことが多く、受賞者の多くがその後、有力な大学や研究機関でポストを得ている。また、受賞者同士のコミュニティ形成を通じて、国際的な共同研究の機会が生まれる。
4.2 STS分野における貢献
この賞は、STS分野の研究水準を向上させる役割を果たしている。選考基準が高いため、受賞業績は分野の先端を切り開くものとして参照される。また、受賞者がその後のキャリアで重要な発信を行うことで、科学技術と社会の関係についての公共的議論にも影響を与えている。
4.3 学術コミュニティでの認知度
国際STSコミュニティにおいて、ロバート・M・ヤング賞は若手研究者向けの最高峰の賞の一つと見なされている。4Sの年次大会での授賞式は、学会のハイライトの一つであり、多くの研究者が注目する。また、他の学術賞との連携や、関連学会からの推薦も行われるなど、制度的な認知度は高い。
5.1 授賞式の開催形態
授賞式は、通常、国際科学技術社会学会(4S)またはヨーロッパ科学技術研究協会(EASST)の年次大会の中で行われる。式典では、受賞者による記念講演が行われ、その後、表彰状と賞金が授与される。近年は、オンラインまたはハイブリッド形式での開催も増えている。
5.2 賞金と副賞
賞金は、学会の基金やスポンサーからの寄付により賄われており、現在は約1,000~2,000米ドル相当である。副賞として、受賞者の研究論文が学会誌に優先的に掲載される特典や、学会参加費の免除が含まれる場合がある。
5.3 類似の学術賞との比較
STS分野には、他にも若手研究者向けの賞が存在する。例えば、「科学技術社会学会優秀論文賞」は未発表論文を対象とするのに対し、本賞は既発表の業績を評価する点が異なる。また、「ニコラス・C・マリンス賞」が科学史に特化しているのに対し、ロバート・M・ヤング賞はSTS全般をカバーする。本賞の特徴は、受賞者の学際性と社会的インパクトを重視する点にある。