1 概要
トラス橋は、三角形を基本単位とする骨組みによって上部構造を支える橋である。部材を直線材として組み合わせ、圧縮と引張を分担させることで、比較的少ない材料で大きなスパンに対応しやすい。
鉄道、道路、歩道など用途は幅広く、橋梁のなかでも実用性の高い形式として長く用いられてきた。設計では、耐荷重性に加えて、施工性、経済性、保守のしやすさ、景観へのなじみ方が重視される。
1.1 定義
トラス橋とは、複数の部材を節点で連結し、三角形の集合体として荷重を伝える橋である。梁の曲げだけに依存せず、部材軸方向の力で支える点に特徴がある。
このため、同程度の条件では、板や厚い梁を大きく用いずに必要な強度を確保しやすい。橋長や用途に応じて、鋼製、木製、コンクリート系などさまざまな材料が使われる。
1.2 特徴
最大の特徴は、力の流れが比較的明確で、構造計算と部材設計を整理しやすいことである。三角形は形が変わりにくいため、外力に対して安定した骨組みを作りやすい。
一方で、部材数や接合部が多くなりやすく、製作と維持管理では細部の精度が求められる。特に接合部、塗装面、排水まわりは点検上の重要箇所となる。
1.3 歴史的背景
トラスの考え方は、木橋や屋根構造などの伝統的な架構に起源をもつ。19世紀以降、鉄や鋼の普及とともに、長い橋を効率よく架ける形式として発展した。
鉄道網の拡大は、耐久性と施工性に優れた橋梁形式を必要とし、各地で多様なトラス橋が建設された。その後、溶接技術や高性能材料の進歩により、設計自由度が広がり、現代でも特定条件下で重要な選択肢となっている。
2 構造
トラス橋は、上弦材、下弦材、腹材、節点からなる骨組みを基本とする。これらが組み合わさることで、荷重を分散し、橋全体として効率的に力を受け持つ。
構造上は、各部材が独立して曲げを受けるのではなく、軸方向の力を主として負担するように配置される。これにより、材料利用の効率が高まりやすい。
2.1 三角形構造の原理
三角形は、外力を受けても幾何学的な形を保ちやすい。トラス橋では、この性質を利用して、各節点に荷重を集め、部材へ分配する。
四角形のように変形しやすい形をそのまま使うのではなく、斜材を加えて三角形に分割することが安定性の基本となる。これがトラス構造の根本原理である。
2.1.1 軸力の分担
トラスの部材は、主として引張または圧縮の軸力を受ける。荷重が加わると、部材は曲げよりも軸方向の力を通じて応答する。
このため、断面の使い方が合理的になり、比較的軽量な構成でも必要な性能を確保しやすい。ただし、実際には接合部の剛性や二次応力も無視できない。
2.1.2 剛性の確保
剛性は、構造が変形しにくい性質を指す。トラスでは、三角形の連なりによって形状変化を抑え、全体の安定を確保する。
部材を適切に配置し、節点で確実に力を伝えることで、たわみや振動を抑えやすくなる。なお、長大化すると局部変形や振動制御への配慮がより重要になる。
2.2 主な構成要素
トラス橋は、上弦材と下弦材で輪郭を作り、その間を腹材が結ぶ。各部材は荷重経路の中で異なる役割を担う。
節点は、部材を接続し、力を伝達する要となる。設計上は、部材そのものだけでなく接合部の性能も重要である。
2.2.1 上弦材
上弦材は、主として圧縮を受けやすい部材である。橋の荷重条件によっては、軸力に加えて局所的な曲げが生じることもある。
断面寸法や座屈対策は上弦材設計の中心となる。とくに細長い部材では、安定性の検討が欠かせない。
2.2.2 下弦材
下弦材は、一般に引張を受けることが多い。上部からの荷重を受けて、トラス全体の下側で力を受け持つ。
引張材としては比較的合理的に設計しやすいが、疲労や接合部の損傷には注意が必要である。用途によっては、圧縮が一部生じる場合もある。
2.2.3 腹材
腹材は、上弦材と下弦材の間に配置される斜材や縦材である。荷重を節点へ導き、三角形を構成して骨組みを安定させる。
配置方法により、圧縮を受けるものと引張を受けるものがある。部材寸法や角度の設定は、力の伝達効率を左右する。
2.2.4 節点
節点は、各部材が交わる接続点である。理論上は力を一点に集める位置だが、実際には接合金物や溶接線などを介して応力が伝わる。
節点部は、構造全体の性能を決める重要部分であり、疲労、腐食、施工誤差の影響を受けやすい。詳細設計では、部材の取り合いと点検性が重視される。
2.3 上部構造との関係
トラス橋では、トラス本体が上部構造の主要部分を構成する。床版や横構、縦構などと組み合わせて、車両や歩行者の荷重を支える。
床組との接続方法によって、荷重の流れや維持管理のしやすさが変わる。上部構造全体として、剛性と軽量化の両立が求められる。
3 種類
トラス橋は、形状、架設位置、部材配置によって多様に分類される。分類ごとに力の流れや外観が異なり、適用条件にも差がある。
実際の設計では、単一の形式に限らず、複数の要素を組み合わせた橋も多い。橋長、地形、用途、施工条件が選定の基準となる。
3.1 形状による分類
形状による分類では、上弦材と下弦材の関係が重要になる。直線的なものから、中央部を高くしたもの、曲線的な輪郭を持つものまである。
外形は見た目だけでなく、力学性能や必要材料量にも関係する。荷重条件に応じた選択が行われる。
3.1.1 平行弦トラス
平行弦トラスは、上弦材と下弦材がほぼ平行に配置される形式である。製作や標準化がしやすく、比較的単純な構成をとる。
同じ高さを保ちやすいため、部材の規格化に向く。中規模の橋梁で広く用いられてきた。
3.1.2 変高トラス
変高トラスは、弦材の高さが場所によって変化する形式である。一般に、支点付近と中央付近で高さを変えることで、力の分布に対応しやすくなる。
材料の使用量を抑えながら合理的な断面設計を目指せる。長大スパンや特定の荷重条件で有利となることがある。
3.1.3 アーチ状トラス
アーチ状トラスは、上弦材または全体輪郭がアーチに近い曲線を示す形式である。見た目に柔らかさがあり、構造的にも荷重の流れを工夫しやすい。
ただし、製作や解析は単純な直線構成より複雑になる。景観性を重視する橋で採用されることがある。
3.2 架設位置による分類
架設位置による分類は、トラスが床面の上にあるか下にあるかで分けられる。交通空間との関係を理解するうえで重要である。
道路や鉄道の空間条件、視界、支障物の有無によって適した形式が変わる。保守動線の確保も判断材料となる。
3.2.1 上路式
上路式は、走行面がトラスの上にある形式である。桁下空間を広く確保しやすく、下部の障害を避けやすい。
鉄道橋や一部の道路橋で使われ、構造が比較的明快である。上部に骨組みがあるため、外観上は力強い印象を与える。
3.2.2 中路式
中路式は、走行面がトラスの中ほどに位置する形式である。構造と交通空間が重なり、必要な高さと安定性の両立が図られる。
側方の視認性や部材の干渉を考慮する必要がある。地形条件によっては、合理的な配置となる。
3.2.3 下路式
下路式は、走行面がトラスの下にある形式である。上部に骨組みが広がるため、橋面の高さを抑えたい場合に用いられる。
景観的には比較的開放感があり、歩行者橋でも見られる。とはいえ、上部構造の存在が限界高さに影響する。
3.3 部材配置による分類
部材配置の違いは、荷重伝達の仕方を大きく変える。斜材と縦材の組み合わせ方によって、力学特性や施工法が異なる。
各形式には適したスパンや用途があり、採用の背景には歴史的な発展もある。
3.3.1 ワーレン型
ワーレン型は、連続する三角形を基本とする代表的な形式である。部材配置が比較的単純で、効率のよい応力分担が期待できる。
構成が明快なため、設計や製作の標準化に向く。中小スパンで多く採用されてきた。
3.3.2 プラット型
プラット型は、縦材と斜材を組み合わせ、特定方向の力に適応しやすい形式である。鉄道橋に適用される例が多い。
圧縮材と引張材の役割分担が把握しやすく、重荷重条件に対応しやすい。部材配置の規則性も特徴である。
3.3.3 ハウ型
ハウ型は、古典的な木製トラスに由来する形式である。斜材と縦材の配置により、比較的大きな開口部を確保しつつ荷重を支える。
伝統的な橋梁や屋根架構との連続性があり、歴史的価値を持つ例もある。現代では保存や復元の文脈でも知られる。
3.3.4 カンチレバートラス
カンチレバートラスは、片持ち構造を基礎に組み立てる形式である。中央に向かって張り出すことで、大スパン化に対応しやすい。
架設中の安定を確保しながら施工できる点が利点である。大河川や峡谷をまたぐ橋で発展した。
4 設計と解析
トラス橋の設計では、荷重条件を整理し、各部材に生じる力を解析したうえで断面を定める。さらに、座屈や接合部の安全性も含めて総合的に判断する。
計算手法は古典的な静力学から数値解析まで幅広い。実務では、規準に基づく照査と詳細な検討を組み合わせる。
4.1 荷重の考え方
荷重は、橋が受ける外力を体系的に整理したものである。恒常的なものと、交通や自然条件により変動するものがある。
設計では、想定される最大級の組み合わせを考慮し、部材と接合部の余裕を確保する。
4.1.1 固定荷重
固定荷重は、橋自体の重さや付属物の重量である。自重は常に作用するため、基礎的な検討項目となる。
床版、舗装、支承、手すりなども含まれる。構造全体の初期条件を決める重要な荷重である。
4.1.2 活荷重
活荷重は、車両や列車、歩行者など、使用時に変化する荷重である。使用目的によって大きさや分布が異なる。
繰り返し変動するため、疲労や変位の評価にも関係する。橋梁の供用性能を左右する主要要素である。
4.1.3 風荷重
風荷重は、風圧や風の振動によって生じる力である。細長い部材や長大橋では特に重要となる。
局所的な圧力だけでなく、全体の揺れや共振の検討が必要である。形状によっては、空力安定性の配慮が求められる。
4.1.4 地震荷重
地震荷重は、地震動によって橋に生じる慣性力である。支点の変位や部材の応答を考える必要がある。
耐震設計では、塑性変形の許容、エネルギー吸収、落橋防止などが検討される。地域条件に応じた安全性の確保が重要である。
4.2 構造解析
構造解析では、外力に対して各部材がどのように反応するかを求める。トラスは静力学的に扱いやすいが、実橋では不静定要素も多い。
解析の目的は、部材断面の決定、変形の把握、安全性の照査である。
4.2.1 部材力解析
部材力解析は、各部材に生じる軸力を求める手続きである。引張か圧縮かを把握することが基本となる。
この結果をもとに、部材断面や接合部の設計を行う。設計の出発点として重要な工程である。
4.2.2 節点法
節点法は、各節点に作用する力のつり合いから部材力を求める方法である。三角形を単位とするトラスに適している。
順番に節点を解いていくことで、比較的分かりやすく解析できる。教育的にも代表的な手法である。
4.2.3 切断法
切断法は、トラスの一部を仮想的に切り出し、その部分の力のつり合いから部材力を求める方法である。必要な部材を効率よく調べられる。
大規模な骨組みや特定部材の確認に向く。節点法と併用されることが多い。
4.2.4 変位解析
変位解析は、荷重によるたわみや節点移動を評価する方法である。使用性の確認に不可欠である。
部材の強度が十分でも、変形が大きすぎると機能や快適性に問題が生じる。現代設計では、応力度だけでなく変位制限も重視される。
4.3 座屈と安定性
圧縮材を多く含むトラスでは、座屈が主要な設計課題となる。材料強度だけでなく、細長比や支持条件の影響が大きい。
全体としての安定も重要であり、局所的な変形が骨組み全体へ波及しないようにする必要がある。
4.3.1 圧縮材の座屈
圧縮材の座屈は、軸方向の圧縮力により部材が横にたわんで破綻する現象である。細い部材ほど起こりやすい。
防止には、断面の強化、補剛、部材長の短縮が有効である。設計上の最重要事項の一つといえる。
4.3.2 横座屈
横座屈は、部材が横方向に不安定化する現象である。特に、細長い圧縮部材や横支えの少ない部分で問題となる。
横構やブレースによる拘束が、安定性向上に役立つ。施工時にも注意が必要である。
4.3.3 全体座屈
全体座屈は、個々の部材ではなく、橋全体または大きな部分が不安定になる状態である。局部損傷より広い範囲に影響が及ぶ。
骨組みの剛性配分や支点条件が関与するため、単独部材の照査だけでは不十分である。総合的な安定解析が求められる。
4.4 接合部設計
接合部は、トラス橋の性能を左右する要所である。部材の軸力を確実に伝えるため、施工法と耐久性の両面から設計される。
接合形式の選択は、製作技術の時代背景にも左右される。古典的な方法から現代の溶接まで、技術は段階的に発展してきた。
4.4.1 リベット接合
リベット接合は、加熱した鋲を打ち込み、冷却時の収縮で締結する方法である。かつては鋼橋で広く用いられた。
現代では新設での採用は減ったが、歴史的橋梁の保存では重要である。外観上も特徴的である。
4.4.2 ボルト接合
ボルト接合は、部材を高力ボルトなどで締結する方法である。施工性と再現性に優れ、現在の橋梁で広く使われる。
分解や交換が比較的しやすく、維持管理にも利点がある。締付け管理が品質確保の鍵となる。
4.4.3 溶接接合
溶接接合は、金属同士を熱で一体化する方法である。継手を滑らかにまとめやすく、軽量化にもつながる。
ただし、残留応力や疲労、施工欠陥への配慮が必要である。設計と検査の両方で精度が求められる。
5 材料
トラス橋には、鋼材、木材、コンクリート系材料などが用いられる。材料の選択は、スパン、用途、環境条件、維持管理方針によって決まる。
それぞれに長所と制約があり、橋梁の歴史は材料技術の変化とも深く結びついている。
5.1 鋼材
鋼材は、トラス橋で最も代表的な材料の一つである。高い強度と加工性を備え、比較的大きなスパンに対応しやすい。
細長い部材を組み合わせるトラス構造と相性がよく、歴史的にも多くの橋で採用されてきた。
5.1.1 炭素鋼
炭素鋼は、一般的な鋼橋に広く使われる材料である。加工や溶接の実績が豊富で、設計の自由度も高い。
一方で、腐食防止のための塗装や点検が不可欠である。環境条件によっては、保守費用が大きくなる。
5.1.2 耐候性鋼
耐候性鋼は、表面に保護性のさび層を形成しやすい鋼材である。適切な環境では、塗装負担を抑えられる場合がある。
ただし、すべての条件で無塗装運用が適するわけではない。気候や飛来塩分の影響を見極める必要がある。
5.2 木材
木材は、軽量で加工しやすく、伝統的な橋梁や小規模構造で利用されてきた。景観になじみやすい点も評価される。
ただし、耐久性や寸法安定性は環境条件に左右されるため、適切な防護と保守が前提となる。
5.2.1 伝統的木製トラス
伝統的木製トラスは、古い木橋や屋根構造に見られる形式である。丸太や製材を用い、単純な接合で組まれることが多い。
歴史的建造物として価値を持つ例もある。現存例は保存対象となることが少なくない。
5.2.2 集成材トラス
集成材トラスは、複数の板材を接着して性能を安定化させた材料を用いる。寸法精度と強度のばらつきが小さく、現代木橋で活用される。
比較的長いスパンにも対応でき、意匠性も高い。適切な防水と接合部設計が重要である。
5.3 鉄筋コンクリート
鉄筋コンクリートを用いたトラスは、鋼に比べて重厚で、部材の表現に独自性がある。耐久性や防火性を重視する場面で検討される。
ただし、純粋な鋼トラスほど自由な細部表現は難しく、重量増にも注意が必要である。
5.3.1 合成構造
合成構造は、鋼とコンクリートの利点を組み合わせた形式である。床版と主構を一体的に働かせることで、剛性や耐久性の向上を図る。
設計では、各材料の変形特性や付着性能を適切に扱う必要がある。複合的な力学理解が求められる。
5.3.2 プレストレストコンクリートとの関係
プレストレストコンクリートは、あらかじめ圧縮力を与えてひび割れやたわみを抑える技術である。トラス構造とは異なるが、橋梁分野では比較対象となる。
場合によっては、トラス的な骨組みと組み合わせた設計思想が用いられる。軽量化と長スパン化の手段として検討されることがある。
6 施工
トラス橋の施工は、部材の精度、組立順序、仮設条件によって大きく左右される。骨組みが細分化されているため、現場での管理が重要である。
架設方法には複数の方式があり、地形や交通条件に応じて選ばれる。施工中の安全確保も不可欠である。
6.1 架設方法
架設方法は、橋を現場に据え付ける手順を指す。部材を一度に組み上げるか、順次延ばすかで施工の性格が変わる。
周辺環境への影響や工期も選定に関わる。夜間作業や通行規制を伴う場合もある。
6.1.1 一括架設
一括架設は、地上や仮設ヤードで大部分を組み立て、まとめて据え付ける方法である。現場作業を短縮しやすい。
大きなクレーンや搬入設備が必要になることがある。周辺条件が整う場合に有効である。
6.1.2 片持ち架設
片持ち架設は、片側または両側から順次延ばしていく方法である。支間中央に仮支えを設けにくい場合に適する。
施工中の不均衡が問題になるため、仮設状態の解析が重要である。大スパン橋で多く採用されてきた。
6.1.3 送り出し架設
送り出し架設は、完成した部分を後方から押し出していく方法である。河川や交通路をまたぐ現場で有効である。
現場下部の干渉を抑えやすいが、滑走装置や仮鼻桁などの工夫が必要となる。事前計画の精度が成果を左右する。
6.2 仮設構造
仮設構造は、本設完成まで橋や部材を支えるための一時的な設備である。施工安全と精度確保の基盤となる。
過不足のない仮設は、工事全体の効率を高める。撤去の手順も含めて計画される。
6.2.1 仮支柱
仮支柱は、架設中の部材を支える一時的な支柱である。荷重を地盤へ伝え、変形を抑える役割を持つ。
設置場所や基礎条件が不適切だと、沈下や傾きを招く。安定計算が不可欠である。
6.2.2 仮締切
仮締切は、水中や湿地での施工時に作業空間を確保するための囲いである。河川橋などで見られる。
止水性の確保と施工のしやすさが要点となる。撤去後の環境復旧にも配慮が必要である。
6.2.3 作業足場
作業足場は、組立や溶接、塗装を行うための足場である。安全な作業環境を提供する。
高所作業が多いトラス橋では、足場の安定性と移動性が重要となる。点検時にも利用される。
6.3 施工管理
施工管理は、計画どおりに品質、工程、安全を確保するための統括である。トラス橋では部材点数が多いため、管理項目も多岐にわたる。
設計どおりに建てるだけでなく、施工誤差の蓄積を抑えることが重要である。
6.3.1 精度管理
精度管理は、部材寸法、位置、角度、たわみ量を管理することである。わずかな誤差が全体に影響する。
組立順序に応じた測定と調整が必要である。特に節点位置のずれは重要な検査対象となる。
6.3.2 安全管理
安全管理は、墜落、落下、重機接触などの事故を防ぐための管理である。高所での組立が多い橋梁工事では核心的な課題である。
作業手順の明確化、保護具の使用、立入管理が基本となる。気象条件による中止判断も重要である。
6.3.3 品質管理
品質管理は、材料、接合、塗装、寸法精度などを確認する工程である。見えにくい部分ほど検査の価値が高い。
記録の整備は、引き渡し後の維持管理にも役立つ。施工段階での情報蓄積が長期性能につながる。
7 維持管理
トラス橋は部材と接合部が多いため、維持管理の重要性が高い。定期点検によって早期に異常を把握し、劣化の進行を抑えることが求められる。
保守の観点では、塗装、腐食対策、疲労損傷の監視が中心となる。必要に応じて補修や補強を行う。
7.1 点検
点検は、構造物の状態を把握するための基本作業である。外観確認と詳細調査を組み合わせて進める。
異常の兆候を早めに見つけることで、大規模な損傷を避けやすくなる。
7.1.1 目視点検
目視点検は、肉眼で変状を確認する方法である。ひび割れ、腐食、変形、塗膜の剥離などを把握できる。
簡便で広範囲に適用できるが、内部損傷は見逃しやすい。定期的な実施が基本となる。
7.1.2 非破壊検査
非破壊検査は、構造を傷つけずに内部状態を調べる方法である。超音波、磁粉、浸透、放射線などの手法がある。
接合部や隠れた欠陥の把握に有効である。調査目的に応じた方法選択が必要である。
7.2 劣化要因
劣化要因は、トラス橋の性能を低下させる原因である。自然環境、交通荷重、施工条件、保守状況が関与する。
複数の要因が同時に進むことも多く、単独原因だけでは説明しきれない場合がある。
7.2.1 腐食
腐食は、金属材料が環境作用によって失われる現象である。鋼トラスでは代表的な劣化要因である。
水分、塩分、汚れの滞留が進行を促す。塗装や排水の良否が大きく影響する。
7.2.2 疲労
疲労は、繰り返し荷重によって損傷が蓄積する現象である。交通量の多い橋では特に注意が必要である。
小さな亀裂が徐々に成長するため、初期段階での把握が重要である。細部の応力集中が発生源になりやすい。
7.2.3 腐朽
腐朽は、木材が菌類などの作用で劣化する現象である。木製トラスや木部を含む橋で問題となる。
湿気対策、通気、排水が防止の基本である。防腐処理も有効な手段となる。
7.2.4 接合部の緩み
接合部の緩みは、ボルトの締付け低下や部材の遊びによって生じる。振動や温度変化も影響する。
わずかな緩みでも、荷重分担の乱れや疲労の促進につながる。定期的な再確認が望ましい。
7.3 補修・補強
補修・補強は、劣化や性能不足に対して橋の機能を回復させる措置である。損傷の程度に応じて、局部対応から全面的な改善まで方法は異なる。
事後対応だけでなく、将来の維持費を見込んだ計画的実施が重要である。
7.3.1 部材交換
部材交換は、損傷した部材を新しいものに取り替える方法である。腐食や疲労が進んだ場合に有効である。
交換時には、周辺部材への影響や仮受け計画が必要となる。供用中工事では交通への配慮も欠かせない。
7.3.2 塗装更新
塗装更新は、劣化した塗膜を再生し、腐食環境から保護する措置である。鋼橋の保全では基本的な作業である。
素地調整の品質が耐久性を左右する。気象条件に応じた施工管理も重要である。
7.3.3 補強材の追加
補強材の追加は、既存構造に部材を加えて性能を高める方法である。耐荷力不足や変形対策に用いられる。
補強後は、力の流れが変化するため、再解析が必要となる。施工の容易さと長期効果の両立が課題である。
8 代表的なトラス橋
代表的なトラス橋には、実用性を示すものから歴史的価値をもつものまで含まれる。各地の技術史や交通発展を映す存在として位置づけられる。
日本と海外では、材料、施工法、用途の違いが見られ、橋梁技術の多様性を示している。
8.1 日本の事例
日本では、鉄道橋を中心に多くのトラス橋が建設されてきた。河川や峡谷を越えるための形式として重要だった。
現存例には、近代土木遺産として保存されるものもある。地域の景観や交通史の一部として評価されている。
8.2 海外の事例
海外では、19世紀から20世紀初頭にかけて多数のトラス橋が建設された。鉄道の急速な拡大とともに発展した歴史がある。
大規模河川や広い平原を越えるため、長いスパンに対応する多様な形式が生まれた。いくつかは現代でも象徴的な橋として知られる。
8.3 歴史的名橋
歴史的名橋には、技術革新や建設時の記録で注目される橋が含まれる。新しい材料や架設法を示した例は、橋梁史上の転換点となった。
保存や再利用の対象になることも多い。単なる交通施設にとどまらず、工学遺産として扱われる。
9 関連項目
トラス橋は、他の橋梁形式や土木工学の諸分野と密接に関係する。比較を通じて、構造の個性がより明確になる。
関連分野を理解することで、設計選択の背景や技術的な位置づけを把握しやすくなる。
9.1 橋梁形式との比較
橋梁形式の比較では、構造原理、適用スパン、施工性、景観性が主な観点となる。トラス橋はその中で、骨組みによる合理性が際立つ。
各形式は長所と制約が異なり、立地条件と目的に応じて使い分けられる。
9.1.1 桁橋
桁橋は、梁状の部材で床版を直接支える形式である。構造が単純で、短中スパンに向く。
トラス橋に比べると部材構成は少ないが、長大化には不利な場合がある。維持管理の見通しは立てやすい。
9.1.2 アーチ橋
アーチ橋は、曲線的なアーチで荷重を支える形式である。圧縮力を活用する点で優れている。
トラス橋とは力の流れが異なり、支持条件にも制約がある。景観面での印象も大きく異なる。
9.1.3 吊橋
吊橋は、主ケーブルと吊材で床構を支持する形式である。非常に長いスパンに対応しやすい。
トラス橋はこれより短中スパンで合理性を発揮しやすい。剛性や施工条件の比較で選択される。
9.2 土木工学との関係
トラス橋は、土木工学の複数分野の知識を統合して成り立つ。力学、材料、施工、維持管理が相互に関係する。
橋梁は社会基盤の一部であり、工学的性能と公共性の両立が求められる。
9.2.1 構造力学
構造力学は、橋に作用する力と変形を扱う学問である。トラス橋の基本解析を支える中心分野である。
静力学、材料力学、安定解析の知識が設計に直結する。教育分野でも代表的な題材となる。
9.2.2 鋼構造
鋼構造は、鋼材を用いた構造物全般を扱う分野である。トラス橋はその典型例の一つである。
接合、疲労、腐食、座屈などの課題が鋼構造の主要テーマとなる。実務上の知識蓄積も豊富である。
9.2.3 橋梁工学
橋梁工学は、橋の計画、設計、施工、維持管理を総合的に扱う分野である。トラス橋の理解には不可欠である。
形式選定から耐久性評価まで、広い視点が必要となる。技術だけでなく、社会的要求も反映される。