1.1 基本情報

『ウォレスとグルミット』は、イギリスのアードマン・アニメーションズが制作するストップモーション・クレイアニメーションシリーズである。1989年に短編『チーズ・ホリデー』が公開されて以来、発明好きな中年男性ウォレスと彼の飼い犬グルミットの活躍を描いている。全作品に共通する要素として、イギリス的なユーモア、チーズへの愛情、そして手間のかかるクレイアニメーション技術が挙げられる。

1.2 主なスタッフ

シリーズの生みの親は監督のニック・パーク。彼はアードマン・アニメーションズの共同創設者でもあり、全作品の監督・脚本を手がけている。主要スタッフにはプロデューサーのピーター・ロード、音楽担当のジュリアン・ノットなどが名を連ねる。声優はウォレス役をピーター・サリスが一貫して担当し、グルミットは無言だが表情と動作で感情を表現している。

1.3 受賞歴

本シリーズは数々の賞を受賞している。短編『ペンギンに気をつけろ!』(1993年)と『ウォレスとグルミット 危機一髪!』(1995年)はいずれもアカデミー賞短編アニメ賞を受賞。長編『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』(2005年)はアカデミー賞長編アニメ賞を受賞した。また、英国アカデミー賞(BAFTA)でも複数回受賞している。

2.1 ウォレス

2.1.1 性格と特徴

ウォレスはランカシャー訛りの英語を話す、少し間抜けだが愛すべき中年男性である。彼の最大の特徴は発明への情熱と、チーズ(特にウェンズリーデール・チーズ)への並々ならぬ愛情である。常に新しい装置を発明してはトラブルを引き起こすが、決して悪意はない。無鉄砲で現実的でないアイデアを次々と実行に移す楽観主義者だが、その性格ゆえに騒動に巻き込まれる。

2.1.2 代表的な発明品

ウォレスの発明品は日常生活を便利にする目的で作られるが、しばしば予期せぬ結果を生む。代表的なものに「自動チーズスライサー」「ロケット付きスリッパ」「自動朝食ロボット」「脳波制御の機械」「巨大メカ野ウサギ」などがある。これらの発明は精巧に見えるが、根本的な欠陥があり、グルミットの機転で事なきを得ることが多い。

2.2 グルミット

2.2.1 知性と行動力

グルミットはウォレスの飼い犬で、シリーズを通じて台詞を一切発しない。しかしその知性は人間以上であり、読解力、機械操作能力、問題解決能力に非常に優れている。彼は黙ってウォレスの失敗を察知し、冷静かつ迅速に行動して危機を回避する。作中では新聞を読んだり、機械を組み立てたり、料理をしたりと人間並みの行動をこなす。

2.2.2 ウォレスとの関係

ウォレスとグルミットの関係は、主人とペットというよりも親友もしくは良きパートナーである。ウォレスがトラブルを引き起こすたびに、グルミットが陰で支えるという構図が基本。グルミットはウォレスに対して時折呆れた表情を見せるが、決して見捨てることはない。一方、ウォレスはグルミットの能力を当たり前のように信頼しており、その絆はシリーズ全体の中心テーマとなっている。

2.3 その他のキャラクター

2.3.1 主要な敵役

シリーズには毎回異なる敵役が登場する。短編『チーズ・ホリデー』では無声の猫、『ペンギンに気をつけろ!』では悪党ペンギンのフェザーズ・マグロウ、長編『野菜畑で大ピンチ!』では殺人野菜(実際は人間が操るロボット)などが登場。いずれもユーモラスな悪役で、恐怖よりも滑稽さが強調されている。

2.3.2 脇役キャラクター

脇役としては、街の婦人(例えばウォレスが恋するパン屋の店員)や警官、隣人などが登場する。特に『野菜畑で大ピンチ!』に登場する羊たちは、グルミットと協力して活躍する重要な脇役である。これらのキャラクターはイギリス郊外のコミュニティを描くのに一役買っている。

3.1 短編映画

3.1.1 『チーズ・ホリデー』

3.1.1.1 あらすじと見どころ

1989年公開のデビュー作。ウォレスとグルミットが月がチーズでできているという仮説を実証するため、宇宙船で月へ旅行するというストーリー。見どころは、月でチーズを食べているところを無表情な猫に邪魔されるユーモラスな展開と、当時としては高度なクレイアニメーション技術。この作品でウォレスとグルミットの基本的なキャラクター設定が確立された。

3.1.2 『ペンギンに気をつけろ!』

1993年公開。ウォレスがペンギンのフェザーズ・マグロウを引き取ったことから始まる騒動。フェザーズが実は宝石泥棒であることが発覚し、グルミットが奮闘する。アカデミー賞短編アニメ賞受賞作。ペンギンがウォレスを騙す巧みな演技と、グルミットのスパイアクションが魅力。

3.1.3 『ウォレスとグルミット 危機一髪!』

1995年公開。ウォレスが発明した自動ズボン装着機や「脳波制御装置」の暴走を描く。後半では無数のズボンが街を襲うというシュールな展開になる。本作もアカデミー賞を受賞しており、発明品の暴走というシリーズおなじみのパターンを極限まで押し進めた作品。

3.2 長編映画

3.2.1 『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』

2005年公開。本シリーズ初の長編映画。ウォレスが野菜栽培に夢中になるが、巨大な野菜を盗む謎の怪物「大ウサギ」が現れる。実はウォレスの発明品が暴走して生まれたロボットであり、グルミットが解決に乗り出す。アカデミー賞長編アニメ賞受賞。イギリスの田園風景とガーデニング文化を題材にしている。

3.2.2 『ウォレスとグルミット やっつけ!パン屋危機一発』

2024年公開の最新長編。ウォレスがグルミットのために自動パン製造機を発明したところ、その機械が暴走して街にパンがあふれ、凶暴化したパン生物を生み出す。グルミットがウォレスと協力してパン怪獣を退治する物語。アードマン創立50周年記念作品として制作された。

3.3 テレビシリーズ

3.3.1 『ウォレスとグルミットの素敵な生活』

2002年にBBCで放送された短編テレビシリーズ。全10話、各話約30分。映画作品と同様のクレイアニメーションで制作され、日常的な発明トラブルを描いている。このシリーズではウォレスの発明がより現代的なもの(ロボット掃除機や自動ペットシッターなど)に変化している。

3.4 その他メディア

3.4.1 コミック

イギリスで複数のコミックシリーズが刊行されている。主に子供向けの絵本スタイルで、オリジナルエピソードが展開される。アードマン公認の作品であり、アニメ本編の世界観を継承している。

3.4.2 ゲーム

2000年代に複数のプラットフォーム向けにゲーム化された。代表作は2005年に発売された『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』の映画連動ゲーム。また、近年ではスマートフォン向けのパズルゲームもリリースされている。

4.1 クレイアニメーションの工程

4.1.1 モデル製作

キャラクターは金属製の骨格(アーマチュア)に油粘土を被せて作られる。ウォレスのモデルは約30cm、グルミットは約20cm。表情の変化のために、顔のパーツを交換式にしており、1体のキャラクターに数十から百以上の顔パーツが用意される。製作には彫刻家と模型職人の専門チームが携わる。

4.1.2 ストップモーション撮影

1秒間に24コマ(映画)または30コマ(テレビ)の静止画を撮影するため、モデルを1コマごとに微調整する。1日で撮影できる秒数はわずか数秒から十数秒。長編『野菜畑で大ピンチ!』では撮影だけで約2年を要した。撮影現場はすべて手作りで、セットも精巧に作られる。

4.2 音響と音楽

4.2.1 主題歌と劇伴

音楽は主にジュリアン・ノットが担当。シリーズのテーマ曲は軽快でコミカルなオーケストラ調である。短編作品ではモーツァルトなどクラシック音楽の引用も多い。音響効果は登場人物の動きや発明品の動作に合わせて細かく作り込まれ、粘土ならではの質感を生かした効果音が特徴。

5.1 英国の国民的キャラクター

イギリス国内ではウォレスとグルミットはマスコット的存在となっている。特にBBCの慈善キャンペーンや切手デザインなどに起用される。ウォレスの愛するウェンズリーデール・チーズの売上向上に貢献したとも言われる。また、イギリス人の自虐的なユーモアと発明好きな国民性を体現するキャラクターとして親しまれている。

5.2 国際的な評価と認知

アカデミー賞受賞により世界的な知名度を獲得。クレイアニメーションの最高峰として、各国のアニメフェスティバルで特集が組まれている。特に日本ではシュールなユーモアが受け入れられ、多数のファンが存在する。サンリオや任天堂とのコラボレーションも行われた。

5.3 パロディとオマージュ

数多くのアニメや映画でパロディの題材となっている。『ザ・シンプソンズ』ではエピソードの一部としてウォレスとグルミット風のキャラクターが登場。また、SF映画『マーズ・アタック!』などでも明らかなオマージュが見られる。日本のアニメ『SHIROBAKO』でもクレイアニメ制作を描く際に本シリーズを想起させる演出がある。