DeepSeek(ディープシーク)は、大規模言語モデルの研究開発を専門とする中国の人工知能企業である。正式名称は杭州深度求索人工智能基礎技術研究有限公司。2023 年に設立され、クオンツ取引会社ハイフライヤー(幻方量化)から孵化した。高い性能と低い推論コストを両立させたオープンウェイトモデルで知られる。

1 会社概要

1.1 名称と位置づけ

中国語名の「深度求索」は「深く探し求める」という意味を持つ。英語名は Deep と Seek を組み合わせたもので、深層学習研究への指向を反映している。会社は自らを基礎技術の研究機関と位置づけ、大規模言語モデルおよび推論モデルの学習、圧縮、実装を主要な領域とする。

1.2 設立の背景

親会社のハイフライヤーは自社で GPU クラスタを構築しており、その AI 研究チームが分離する形で DeepSeek が生まれた。独立後も自前の計算基盤と学習フレームワークを維持する方針を継続し、同規模のモデルを持つ他社と比べて開発チームは小規模に留まっている。

2 沿革

2.1 設立から初期モデルまで

2023 年 7 月に設立。同年 11 月にはコード向けの DeepSeek Coder と汎用の DeepSeek LLM を公開し、モデルの重みと技術報告書を合わせて発表した。

2.2 アーキテクチャの転換と価格競争

2024 年 5 月の DeepSeek-V2 では、Multi-head Latent Attention と独自の Mixture of Experts 構造を導入し、推論コストを大幅に削減した。API の料金は同種のサービスよりはるかに安く設定され、中国の大規模モデル市場における値下げ競争の引き金となった。

2.3 規模の拡大

2024 年 12 月の DeepSeek-V3 は Mixture of Experts を採用し、総パラメータ数は約 6710 億、トークンあたりの有効パラメータは約 370 億である。公表された学習費用と GPU 時間は、同世代の最先端モデルに必要とされていた水準を大きく下回り、学習効率をめぐる議論を呼んだ。

2.4 推論モデルの登場

2025 年 1 月に推論モデル DeepSeek-R1 を公開した。人手で作成した推論過程に依存せず、検証可能なタスクに対する強化学習を中心に学習させた点が特徴である。重みは寛容なライセンスで公開され、同時に提供されたアプリは各国のアプリストアで上位に入った。

2.5 その後の展開

2025 年を通じて更新が続き、V3.1 や V3.2-Exp など、ハイブリッド推論、長いコンテキスト、疎な注意力機構を組み合わせた版が発表された。R1 に関する研究も査読付きの学術誌に投稿された。

3 製品と技術

3.1 モデル系列

  • V 系列:対話、文章作成、コーディング、ツール呼び出しを担う汎用モデル。
  • R 系列:数学やプログラミング、多段の推論を重視する推論モデル。
  • Coder 系列:コード補完とプログラム理解に特化したモデル。
  • マルチモーダル系列:画像の理解と生成を担う Janus ファミリー。

3.2 主要な技術

3.2.1 Mixture of Experts

各トークンを少数のエキスパートのみに振り分けることで、総パラメータ数を増やしても演算量を抑えられる。

3.2.2 Multi-head Latent Attention

キーとバリューのキャッシュを低ランクの潜在空間に圧縮し、長いコンテキストでの推論時に必要なメモリを削減する。低コストでの実装を支える基盤である。

3.2.3 強化学習による推論能力の獲得

正解を検証できるタスクであれば、結果への報酬のみでも長い思考の連鎖が自然に形成されることを R1 は示した。

4 オープン化と影響

4.1 ライセンス

多くのモデルの重みが公開され、商用利用や再配布が認められている。超大規模な商用展開にのみ追加条件が付く。この方針により、公開モデルの中でも特にダウンロード数と派生版の多い系列となった。

4.2 業界への影響

低い学習コストとオープンな重みの組み合わせは、最先端の能力には巨額の設備投資が必要だという前提を揺るがし、小規模なチームへの推論モデル普及を後押しした。複数の国の公共機関やクラウド事業者、半導体メーカーが導入やオンプレミス配備を発表している。

4.3 議論

注目度の上昇にともない、学習データの出所、他社モデルからの蒸留、オープン公開の範囲、安全性の調整をめぐる議論も生じた。規制当局や競合他社からは適法性への疑問が示されることもあり、会社側は技術報告書とモデル解説で応じてきた。

5 利用とエコシステム

5.1 公式サービス

Web 版とモバイル版のアシスタント、開発者向けの API を提供し、関数呼び出しやコンテキストキャッシュなどの機能も備える。

5.2 サードパーティ

重みが公開されているため、量子化版やローカル実行ツール、微調整済みの派生モデルがコミュニティから多く生まれている。中継サービスを通じた提供もあり、企業ではプライベート配備や社内文書の問い合わせ応答に使われる例が多い。

6 参考文献